~♪
カランカラン
「ありがとうございました~♡」
おいらは自分が愛情込めて焼いたパンをたくさん抱えて
幸せそうに帰ってゆくお客さんの笑顔を見ながらゆっくりとお辞儀をすると
扉が閉まったことを確認してから小さくため息を吐いた
「ふぅ・・・これでひと段落ついたかな?」
ふと壁に掛かっている時計に目をやるとちょうど8時30分になった所で
おいらはその時間を見てやっと朝のラッシュが終わった事に気が付いたんだ
通学途中の学生さん、通勤前のOLさん、小さな子供を連れたお母さんなど
この時間までにたくさんのお客さんがおいらの店を訪れては
皆楽しそうに眼を輝かせながら籠に入ったパンを選び
そして幸せそうな顔をして其々の場所へと向かうんだ・・・
でもおいらはそんなお客さんの顔を見るのが大好きだ
だって一生懸命作ったパン達がお嫁に行くんだもん・・
そしてそのパンを食べた人達が笑顔になってくれたら
もうそれだけでおいらは嬉しくてまた今日も1日頑張ろうと思えるんだ・・
「今日もたくさん売れたな・・
もう1回焼かないとお昼のお客さんの分が無くなっちゃうかも・・」
おいらは伸ばしていたコック服の袖をもう一度たくし上げると
撒いていたエプロンをキュッと固く締め直してから作業場へ向かおうとした・・
その時閉まったはずの店の扉が開いた音がしたから
おいらは反射的に声をかけてしまう
でもそこに立っていたのは
おいらの朝ごはんを持った潤くんだった
~♪
カランカラン・・・
!?
「いらっしゃいま・・・」
「おう!お待たせ~、朝飯持ってきたぞ~」
「あ・・・潤くん♪」
「うわ~!?今日はまた随分と減ってるね~
もしかして朝ごはんも食べずに今から追加のパンを焼こうとしてた?」
「・・・・・・・・」
「ダメだよ?そんな事しちゃ・・
はい取り敢えずこれ食べて?パンはあとから焼けばいいでしょ?
まずは自分の腹ごしらえしないと・・ね?」
「・・・・・・、はい(汗)」
「うん!素直でヨロシイ・・(笑)」
もう・・潤くんには本当に敵わない
だっておいらの事何でも分かってるんだもん・・・
もしかしたら翔くんよりもおいらの事分かってくれるかも
「・・・・・・・・・・・」
「ん?どうした?俺何か変な事言った?」
「ううん・・・そんな事ないよ?
ただ、これだけ長い間一緒にいると
おいらの事何でもわかっちゃうんだな・・・って思ってさ・・」
「え?あぁ・・そうかも…。でもそれは俺だけに限らないと思うよ?
カズも、雅紀も・・もちろん翔さんだって
貴方の事なら大概の事なら判ると思うけどな・・」
「え?ど・・どうして?」
「だって、皆貴方の事が好きだから♪」
「え?あ・・あの・・」
「あぁ・・別に変な意味じゃないよ?
智だって翔さんがお腹痛かったり体調が悪かったりしたら
どれだけうまく隠しててもなんとなくわかるでしょ?」
「うん・・・」
「それと一緒だよ?」
「そうなんだ・・・」
「そうなの・・だから、はいとりあえずこれ食べて?
今日は智の好きなハムとチーズを挟んだホットサンドと
ミネストローネとヨーグルトだよ?当然ミルティー付き♡」
「わぁっ♡ほんとにおいらの好きな物ばかりだ・・
ありがとう潤くん!」
「(〃∇〃)」
「ホントはね、凄くお腹空いてたんだ・・
もうさっきからギュウギュウ鳴ってたの・・・んふふっ♪」
「あははっ!そうなの?じゃ尚更たくさん食べなきゃ
店の方は俺に任せて智はゆっくり食べて?」
「うん・・ありがとう
じゃあ頂きま~す♪」
「はい、ゆっくりおあがり・・・」
おいらは作業場の上に潤くんが持って来てくれたお盆を置くと
まだ白い湯気が立っているスープから手を付けた
細かく刻んだ野菜がたくさん入っているそのスープは
猫舌のおいらにはまだ熱く感じるくらいの温度を保っていて
そのスープを一口飲んだだけで
冷えていた身体中が一気に温かくなったような気がしたんだ
「あぁぁ・・・美味しいな~っ
やっぱり潤くんの作った料理は最高だぁ~」
「ふふっ、ありがと・・
まだ熱いから気を付けて?ゆっくり食べていいから・・」
「うん・・ありがと・・」
おいらはそんな潤くんの声を聞きながら
薄くきつね色に焼けているサンドイッチに手を伸ばした
持った瞬間香ばしく焼けたパンのパリッとした手触りと
フワッと温かな感じが同時に感じることが出来て凄く幸せだった
そしてそのサンドイッチをひと口食べてみる
すると中に入っていたチーズがトロリと溶けて出して細い糸を引いた
「んッ・・ン・・・うまっ!チーズが最高・・もぐもぐ・・」
口の中に広がるチーズの塩気とハムの絶妙な触感が堪らない
パンに薄く塗られているからしマヨネーズも食欲をそそる・・
「うまっ!ん~~っ!堪んないな~♪
はふはふ・・・さくっ!ぱくっ!モグモグ・・」
おいらはその余りのおいしさに夢中になってしまって
あっという間に料理を全部食べてしまっていた・・・
そんなおいらの姿をチラチラとみていた潤くんは
お皿の上に乗っていた料理がすべて無くなっている事を確認すると
嬉しそうに微笑みながら頭をグリグリと撫でてくれたんだ
「偉い偉い!全部食べたね~?」
「うん・・だってすっごく美味しかったんだもん
ふぅ~お腹一杯ごちそうさまでした・・・」
「はい、お粗末様でした(笑)」
「はぁ・・・しばらく動けない・・・」
「あははっ!まぁいいんじゃない?
ちょっとだけ休憩してそれから仕事すれば・・ね?」
「うん、そうする・・・」
おいらは自分のお腹に手をやると
ポッコリと膨らんだお腹を手で擦りながら幸せに浸っていた
「ふぅ・・・・」
おいらの前で当たり前のように調理台の上を片付けている潤くんがいる
空いたお皿を下げ綺麗に重ねてお盆の上に置くと
持っていたダスターで調理台の上を素早く拭きながら
優しい声でこう聞いて来てくれたんだ・・・
「ねぇ、翔さんは?まだ来てないの?」
「え?あ・・うん、そうだね・・・
あぁ・・もう8時50分なんだ、
確かにちょっと遅いね・・どうしたんだろ」
「・・・・・・・・」
「でも、<朝から色々しなくちゃいけない事がある>って言ってたから
もうちょっとしたら来るかもしれないよ?」
「そうだね・・」
「潤くん?どうかしたの?」
「え?あ・・うん・・・ちょっと気になって・・」
「翔くんが来たら潤くんのお店に顔を出すように言っとくよ
大丈夫、もうすぐ来ると思うから・・・」
「うん・・・。
あ・・ごめんもう帰らなくちゃ・・」
「あぁ・・ホントだ。今日も美味しい朝ご飯をありがとう潤くん
またいつもの時間くらいにお昼ご飯食べに行くからね」
「あぁ・・分かった!じゃ待ってるね?」
「うん、じゃぁまた後で・・・」
潤くんは自分が持ってきたお盆をひょいっと片手で持つと
小さくウィンクをしながら自分の店へと帰って行く
おいらはそんな潤くんの姿を見ながら小さく手を振って見送る
そしてその姿が見えなくなった後
ズボンのポケットに入れていた携帯を手に取り
翔くんの携帯へ電話を掛けた・・・