シリウスへの翼~瑠璃色の雫~#35 | 青い天使のアトリエ*嵐*山love♡妄想小説*

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J事務所所属、気象系グループさんの名前をお借りして
腐った妄想小説を書き綴っております
主に山コンビメインですが他のCPもあります

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2週間後


イタリアミラノにあるギャラリーで小さな個展が行われた

元々、新進気鋭の画家の絵を扱う事で有名だったそのギャラリーは
たとえ小さくてもその場所で個展を開く事が出来るだけでその意味を成す
そのギャラリーのオーナーが認めた芸術家はこのギャラリーで個展を開いた後
あっという間に世界中を駆け巡り世界各国の大都市で自らの個展を開く程に成長する

そういう意味ではこのギャラリーで個展を開くと言う事は
世界への道が開かれると言う事・・・

そしてそれはもちろん大野さんも例外ではなかった・・・


。。。。。。。。。。


個展が終わった数日後
俺達の住んでいるアパートに1人の男性が訪れた


      <貴方がsatoshiさんですね・・・>


     「はい・・・そうですけど・・・あの?」


      <初めまして私の名前は”ミケーレ”と言います>


     「はぁ・・・」


      <少しお話ししたいことがあるのですが
        お時間宜しいでしょうか?>


     「あ、あの・・・・・・・?」



「立ち話もなんですから中へどうぞ・・・」


      <ありがとう・・・>


そういうとその男性は
ふわりと優しい笑顔を見せながら俺達の部屋へと入って来た

俺は近くにあったソファーへと男性を案内した
男性は少しそわそわした感じで落ち着かない様子だったから
買って来たばかりの新しい豆で濃い目のコーヒーを入れてあげた


「どうぞ・・・」


      <あ、ありがとう・・・、いい香りだね>


彼は淹れたてのコーヒーの香ばしい香りを楽しんだ後
ゴクリと一口喉へ流し込み小さくため息をついた
そして俺が大野さんと自分の分のコーヒーを持って帰って来たのを見計らって
今日此処へ来た理由をゆっくりと教えてくれたんだ


でもその内容はあまりにも突然すぎて
聞いていた俺たち2人ともその衝撃に頭の中が真っ白になってしまった・・・


「はっ!?
 ”レオナルド”ってあの有名な画家の”レオナルド”さんですか?」


       <はい・・・そうです>


       「・・・・・・・」


「大野さんの描いた絵を見て、そう言ってくれたんですか?」


      <はい。
       正確にはギャラリーのオーナーがsatoshiさんの個展を開く前に
       先生の所へ何枚か絵を持ち込みその絵に対しての意見を聞きに来た・・・
       と言った方がいいでしょう」

   
      「・・・・・・・」


「そ・・それで先生はなんと?」


      <ぜひ個展を開くべきだと・・・絶賛しておりました
        そして・・・>


「そして?」

  
      <個展が終わったら自分の元で勉強させてみたいと・・・>



   ー !!!!? ー



      <先生がこんなこと言ったのは初めてです
        今まで何人もの人が先生の元で勉強させてほしいと訪れました
        でも先生が首を縦に振った人は今まで数人しかおりません>


「はぁ・・・」


       <先生の元で勉強した人たちは
         今では皆世界に名を届かせるような方々ばかりです>


「その先生が・・・大野さんを?」


       <そうです・・・satoshiさんは
        エコール・デ・ボザールに在学していた事がおありだとか・・
        ”マッティア”先生を覚えていらっしゃいますか?>

 
       「え?は・・はい。おいらの担当の先生でした・・・」


       <”マッティア”先生は”レオナルド”先生の友人です
         貴方が在学していた時の事をよく覚えていらっしゃいました>


       「そ・・そうなの?」


       <はい・・・。素晴らしい才能の持ち主だったと教えてくれました
         近年まれに見るほどの逸材だったと・・・>


       「・・・・・・・マッティア先生が・・・そんな事・・・」


「・・・・・・」


        <satoshiさん・・・>


       「はい・・・」


        <先生が貴方をお待ちです。ぜひ私と一緒に来てください
          必ず連れて帰ってくるようにと・・・キツク言われております>
        


      「・・・・・・・でも・・あの・・・」


       <何を悩むことがあるのです?貴方が心配するようなことは何もない
        申し訳ありませんが貴方の事を少し調べさせていただきました
        辛く悲しかった日々を過ごされてきたんですね・・・>


       「・・・・・・・」

      
       <でも、もうその呪縛は消えたはず。
        これからの人生は貴方の思うままに生きるべきだ
        貴方の好きな絵を好きなだけ描く事が出来る・・・
        先生の元に居れば貴方の未来は大きく開ける>


      「ちょ・・ちょっと待って?」


       <戸惑うのも分かります、でも今日は貴方の人生で大切な日となる
        輝く未来を踏み出した第一歩の日として・・・>


      「・・・・・・」


「大野さん?どうしたの?嬉しくないの?」


      「ん・・・えっと・・・、
       あまりにも話が急すぎてついていけない・・・」
      

「あの・・・取り合ず今日の所は一旦お引き取り頂けますか?
 あまりにも素晴らしいお話すぎて・・・
 申し訳ありませんが少しお時間を下さい
 後日、必ずご連絡を差し上げますので・・・」


       「あ・・・お、お願いします」


       <・・・・・。そうですね、確かに突然すぎました
        では3日でお返事を頂けますか?
        先生が心待ちにしていらっしゃいますので
        あまり長くお待たせするのも・・・>


「分かりました
3日以内に必ずご連絡させて頂きますので」


       <はい。satoshiさん・・・>


       「はい・・・」


      <・・・・・、お待ちしております>


       「・・・・・、はい・・・」


「・・・・・・」


客人は冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干し
何度も大野さんの方を振り返りながら帰って行った
客人の歩いた後はふわりと油絵の具特有の匂いがした


パタン・・・・



「・・・・・・・」



      「・・・・・・・・」



俺達はゆっくりと扉が閉まるのを確認した後
黙ったまま再びソファーへと座り直した

飲みかけのコーヒーはもう完全に冷めてしまっている


「コーヒー・・・淹れなおそうか」


      「う・・うん・・・、そうだね・・・」


「・・・・・・」


      「・・・・・・」




コポコポコポ・・・・


目の前のサイフォンから香ばしい香りが漂い始めた
俺は新しいカップを用意し、予めお湯を注いでカップを温めておく
最後の一滴が落ちるのを確認してから
2人分に分けコーヒーを注ぎ入れる

俺はブラックで、貴方はミルクと砂糖を少しだけ・・・


「お待たせ・・・」


      「あぁ・・・ありがとう」


貴方はその綺麗な細い指をカップの取っ手に差し入れ
ゆっくりとコーヒーを口へと運ぶ
俺はそんな貴方の様子を見ながら黙ったままコーヒーを飲んだ


       「・・・・・・・」


「・・・・・・・」



       「・・・・・・・」



2人の間に沈黙が続く・・・

俺は大野さんの気持ちを聞きたくて
口を開こうと思った・・・その瞬間・・・


「あ・・・あの・・さ・・・」


      「ねぇ・・・潤くん」


「ん?な・・・なぁに?」


      「お願いがあるんだけど・・・」


「何?どうしたの?」


      「司の所へ・・・連れてって?」


「えっ!?な・・なんで兄貴?」


     「・・・・・・、お願い・・・」


「う、うん・・・分かった。
 えっと・・どうする?今から行く?」


      「うん・・」


大野さんはジッと1点を見つめたまま動かない
そしてやっと口に出した言葉は「司の所へ連れてって・・・」だった

俺は大野さんが何故そんな事を言ったのか分からなかった
でも行きたいと、逢いたいというなら・・・
断る事なんてできない

だって兄貴と大野さんの2人には
2人だけしか知らない時間があって
それはたとえ俺がどう足掻こうと
立ち入る事が出来ない時間だったから・・・


   

。。。。。。。。。。。。


俺達の住むアパートから電車で30分の距離に
兄貴が眠り続けている病院がある
最先端治療を行っている事で有名で
イタリアでは3本の指に入る大きな病院だ

俺は大野さんを兄貴の病室まで案内してあげる
大野さんは眠り続ける兄貴のベッドの傍らで
寂しそうに微笑み動かない手をそっと握り締めた


      「司・・・」


「・・・・・・」


俺はそんな様子を少し離れた場所から見ていたけど
2人きりにさせてあげようと思って大野さんを一人残して病室を出たんだ



。。。。。。。。。。。



      「ねぇ・・・司、おいらどうすればいい?」


『・・・・・』


     「凄くいい話だと思うよ?認めてもらえただけでも凄く嬉しい
      できればその先生の元で勉強したいと思う・・・でも・・・」


『・・・・・』

     
     「いいのかな?司や、潤や他の皆があんな事になったのに
      おいらだけ幸せになってもいいのかな?」


『・・・・・』


     「司・・・。ねぇ・・・司・・・起きてよ?
      司が起きてくれないとおいら・・・自分だけ幸せになんてなれないよ」


『・・・・・』



     「あの時みたいにおいらを怒って?
      ばか野郎って言ってよ・・・司・・・」


『・・・・・』


     「・・・・・・・、お願い・・・起きて?」


『・・・・・・』




     「・・・・・・。
      ごめん・・・もう帰るね
      おいらやっぱり・・・自分だけ幸せになんて・・・なれない」


『・・・・・』


ガラララ・・・・・


おいらは返事のない司のベッドからそっと離れ病室を後にする
横にスライドする扉を開くと直ぐ横に置いてあった長椅子に潤くんが静かに座っていた

祈るような恰好をした潤くんはおいらの気配に気が付くとそっと顔を上げる
そして震えるような小さな声で、扉を開けたまま佇むおいらに聞いてきたんだ


「決めたの?」


       「うん・・・・、折角だけど断るよ」


「えっ!?で・・でも・・・」


      「おいらだけ・・・幸せになんてなれないし・・・」


『 ・・・ ピクッ ・・・ 』



     「・・・・・・」


「いいの?それで?
 本当に後悔しないの?」


     「・・・・・・。大丈夫、後悔しない
      おいらはこのままでいいんだ・・・」


「でもせっかくのチャンスなのに・・・
 貴方の夢が叶う道なのに・・・」


     「いいんだよ・・・もう・・・」


「・・・・・・」
      


『・・・・ ぅ ・・・ ぁ ・・・』



       「潤くん・・・帰ろう?」


「う・・・うん・・・・」


       「・・・・・・・」



その時俺達は気付いていなかった
イギリスの小さな病室の中で
今まさに奇跡が起ころうとしていることに・・・





『 さ ・・・ とし ・・・』