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ー ドーーーン!!! -
!!?
「あ・・・・」
おいらはその瞬間の事は覚えていない
でもさっきまでおいらの上にいたはずの和也さんは
ベッドのある反対側の壁際で倒れていてピクリとも動かなくなっていたんだ・・
「・・・・・・・・」
「和也・・さん・・?」
おいらは思わずそう口にした・・・
でもそんなおいらの言葉を追いかけるように
窓の外に浮かんでいる翔さんの声が低く響いて来る
<何をしている・・・>
「えっ!?あ・・・あの・・・」
<早くその部屋から出ろ・・・
今なら身体も動く筈だ・・・>
「・・・・・・・??」
翔さんのその言葉が聞こえたおいらは
ベッドの脇に落ちていた自分の服を拾い上げると
そのまま足を踏み出してみる
すると翔さんが教えてくれた通り
さっきまで動かなかった足が動くようになっていて
おいらは倒れたまま動かない和也さんの姿を横目で見ながら
素早くベットから降りたち急いで部屋から出て行ったんだ・・・
。。。。。。。。。。。。。。
「はぁ・・っ、はぁっ・・はぁ・・っ」
おいらは落ちていた服を抱き締めたままで廊下を走った
元々大きな屋敷だったからその廊下も長い
でも今のおいらにはその廊下が果てしなく続いているように見えて
走っても走っても自分の部屋に
辿り着かないんじゃないかって不安になってしまう
(どこ?おいらの部屋ってどこだったっけ?)
「はぁ・・はぁ・・、はぁ・・・」
(早く・・早くッ逃げないと・・・
また誰かに捕まっちゃう・・)
「っく・・!っはぁ・・・はぁ・・」
(もし・・・もし今度誰かに捕まったら・・
もう・・逃げられない・・翔さんももう・・助けてくれない・・)
おいらの目の前にさっき見た光景が蘇る
音もなく月夜に浮かんでいる翔さん・・
そんな翔さんに挑むような眼を向けた和也さん・・
2人とも・・人間の目じゃなかった・・
金色に輝くあの瞳は間違いなくバンパイアの眼・・・
<貴方は花嫁と言う名の生贄なんだよ・・>
ー !!!? ー
ゾクッ・・・・!
(どうして・・?どうしてこんな事に・・?)
「・・・っ」
返事なんて最初から期待していない
だっていまさらそんな事を考えたって無意味だから・・
でもだからってこんな風になるのは嫌だ
おいらにだって感情は・・あるんだ・・
「・・・・・・・・・」
おいらは必死で足を動かしながらそんな事を考える
そして薄暗く誰もいない廊下を必死で走り抜けたんだ
。。。。。。。。。。
バタバタバタ・・・・
「はぁっ、はぁっ・・はぁっ・・」
ガチャガチャ・・
ガチャッ!バタンッ!!
おいらはやっと見えた自分の部屋の扉を急いで開け後ろ手で鍵を閉める
そして誰も入って来ないようにと身体で扉を支えながら凭れ掛かったんだ・・
「はぁ・・はぁ・・一体なんなの・・?
どうしてこんな事・・・」
何とか自分の部屋へと戻ってくることが出来たおいらは
一気に体の力が抜けてズルズルとその場にしゃがみ込んでしまった
「はぁ・・・ふぅ・・・・」
暫くの間おいらはその場にジッとしていた・・
でもふとある事を思い出しベッドの下に置いてあった鞄を引っ張り出すと
身近に在った荷物を鞄の中へと押し込み再び部屋を出たんだ・・
廊下の先にある螺旋階段を急いで降りそのまま屋敷を出る
そしておいらはセバスチャンさんを呼んだ・・・
「セバスチャンさん・・お願いがあります・・
おいらを教会へ連れてってください・・・
どうしてもシスターに聞きたいことがあるんです」
<・・・・・・・・・・>
「セバスチャンさん!聞こえているんでしょ?
おいらが呼んだらすぐに来てくれるって言ったでしょ?」
<・・・・・・・・・>
「ねぇ・・セバスチャンさん!今すぐここへ来て・・!」
おいらは屋敷中を見回しながらセバスチャンさんに声をかけた
でも・・辺りはシンと静まり返っていて物音ひとつ聞こえない・・
「・・・・・・。
来てくれないならおいら・・自分で勝手に行くから・・」
おいらは持っていた鞄にグッと力を籠め
そのまま屋敷を出ようと門の方へと近づいてゆく・・
そしてその門に手を掛けようとした時
遠くから車の音が聞こえて来たんだ
「えっ!?嘘・・ホントに来た・・?」
ブロロロ・・・
キキッ・・・
ガチャ・・・
バタン!
<智様・・お呼びでございますか?>
「う・・うん・・・」
<おや?こんな時間に鞄を持って・・
一体どちらへ行くおつもりで・・・?>
「セバスチャンさん・・・」
<はい>
「おいらを・・住んでいた教会に連れてって?
シスターにどうしても聞きたいことがあるんだ・・・」
<・・・・・・・・・・>
「お願い・・おいらこのままじゃ・・」
<構いませんが・・>
「お願い今すぐ連れてって・・
セバスチャンさん!」
<・・・・・・・。分かりました
そこまでおっしゃるならお連れいたします・・・
ですが・・何があっても驚かれませんように・・・>
???
「うん、わかった・・・」
そう言うとセバスチャンさんは車の後部座席のドアを静かに開けてくれる
おいらは促されるまま車に乗り込むと一言も発しないままジッと外を眺めた・・
運転席に乗り込んだセバスチャンさんはバックミラーを確認すると
ゆっくりとアクセルを踏み込み車を走らせてくれる
窓の外を眺めていたおいらの眼から古く大きな屋敷がゆっくりと姿を消すと
街の明かりが横に伸びる光の帯となって行った・・・
おいらは流れて行く光を追いかけながら色々な事を考えた・・
でも・・どれだけ考えても何度考えても
やっぱり最後に辿り着くのはそこしかなくて
その答えを聞けば少しは救われるかもしれないと思っていたんだ・・
「・・・・・・・」
(シスター・・・教えてください・・・)
(どうしておいらが選ばれたんですか?)
(どうして・・こんなに翔さんに心惹かれるんですか?)
(本当に・・・)
(おいらは生贄なんですか・・・)
「・・・・・っ!」
(教えてください・・・)
(シスター・・・)
。。。。。。。。。。。。。。
車に乗って1時間後・・
おいらは目の前に広がる光景を見て
その時やっとセバスチャンさんの言った意味が分かったんだ・・
「どういう・・こと・・・?」
<・・・・・・・・・>
「ねぇ・・これは一体どういうことなの?
おいら・・何も聞いてないよ?」
<智様には心配を掛けさせたくないと仰っておりまして>
「嘘だ・・・」
<・・・・・・・・・・>
「嘘だっ!」
<智様・・・>
「嘘だーーっ!」
<・・・・・・>
「はぁ・・はぁ・・・」
おいらがこの教会を出てまだ1週間も立っていない
なのに見慣れたはずの教会にはもう誰も住んでいなくて
人の温もりなんて微塵も感じられない
ただのさびれた教会がポツンと佇んでいるだけだったんだ・・・・