草木の声 (短歌)

草木の声 (短歌)

母の短歌をまとめました 興味のある方はどうぞご覧ください

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昔 HPにUPしていたものです。HP閉鎖の際、画面をPrintScreenで切り取って保存してありました。今読み返すと ワンちゃんに塩分有りの食べ物を与えたり ダメねってとこもありますが、愛犬の看取り経験のない方へ少しは心の準備になるかなと。。

(友人と 映画ワンダフルライフ観たのがきっかけです)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

注意 遺体写真なので見たくない方はスクロールしないで下さい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき 

 

 身辺整理を兼ねて本箱の本を見直していると、娘の慶子が手作りで良いなら歌を一冊にしてみたらと声がかかり、いろんな理由をつけて(まと)めることを諦めてきた気持ちが動き出しました。 どの歌も拙い一首ですが、私の生きた証として分身のような歌、三千余の中から家族を詠んだ歌を中心に好評だった歌、私の好きな自然詠など四百三十首をまとめることにしました。

 師の勧めで入会した結社「辛夷」は上達より人生や社会勉強のつもり、そうして日記がわりになればという気持ちできました。 けれどいつしか道連れと云うか生活の一部となり、いつも広告の裏をメモ紙として身から離さず作り続け、役割も与えられ三十六年もの歳月が経っていました。

 

 歌を選ぶにあたり、私の背景と云いますか人生観を記しておきたいと思います。敗戦で世の中も家庭も不遇な時代で、多くの人がそうであったように、私も夫も両親兄弟を次々と亡くし、ひたすら生きることに一生懸命でした。そんな中で育ち結婚した私達は何がなくても「家族を大事に 仲良く」を第一の願望として据えてきました。

 

結婚間もなく武田の兄が亡くなり本家代わりとなり、両方の家への責任感と行事や 人間関係も多く難しく、若すぎる私達には荷が重い長い年月でした。そうした中で主婦(子育て)、仕事(洋裁、祖父母の農繁期手伝い後にはアルバイト)、ボランティア(里親会、いのちの電話相談員)、短歌、という生活で何十年走り続けたのだろうと懐かしく振り返ります。

 生き残った者の使命のような気持で過ごしてきた日々を今顧みる時、大切な友人をはじめ多くの老若男女と出合い、広く深く様々な事を学ばせていただき、私の人生の幅を広げ豊かにしてくれた事を幸いに思っています。

 

歌については「現代かな」で詠んできましたし、分かり易い歌を選んでみました。どうぞ幼い頃や反抗期を思い出して懐かしみ、笑って口ずさんでみて下さい。今あなたと思い出話をするように「あとがき」を書いています。

 思い返せば常に優しい夫の協力と二人の子供夫婦と孫達があしたの希望を与えてくれ、幾度もの大きな手術にもかかわらず復活して、今の余命あることに心から感謝して                                   毎日を生きています。       合掌   

武田 富美子

(二〇一六) 平二八年一〇月一日  

 

 

* あとがきは 子二人、孫五人へ宛てたものです

 

 

 

武田 富美子 略歴

1935年 (昭和10年)  生

上川郡 鷹栖町 出身

旭川文化服装学院卒 (洋装店勤務)

昭和351月 結婚

昭和47年 辛夷入会

 

 

 

 

掲 載

 

辛夷 発行所(帯広本社) 代表、野原水嶺

(合同歌集 第4~第10

旭川市民文芸

旭川歌壇

北海道新聞(文芸ひろば)

町内会会報(文芸欄)

草木の声 

 

 

 

 

12 続き

 

 

 

(おだ)やかにして

 

久に会う覚悟をきめた()うけぶり穏やかにして老い悲しまず   (叔父)

 

手を握る他に励ます(すべ)も無くうっすら伸びた髭剃(ひげそ)やりぬ

 

ななかまど死に物狂いの真っ赤かのんびり窓から首なぞ出せぬ

 

気をぬくと(うず)きはじめるこの脚は一蓮托生の付き合いなりし

 

誰からも許されていると思いたし(けぶ)らうように暮るる古里

 

(ゆず)ように空を広げて枯れゆく樹()らぬものなど無き森あるく

 

生き(つづ)るわが終章へ続編のはじまりのごとく患部映像

 

(こつ)然としかし()りありと写りたる怒るかたちの血管(りゅう)

 

引き換えに差し出すものは何も無いわが物顔の動脈瘤よ

 

(たま)りたるいかばかりかを吐き出してストレス動脈救いてやらん

 

 

 

 

芝生の露

 

踏み入りし芝生(しばふ)の露のしぶき立つ生きていること鮮かな朝 (パークゴルフ)

 

希望して(はぐく)みたりし血を分けぬおのこの口調はや壮年へ

 

父母()りし(あか)しのようなるわが命 巡る夭死(ようし)の三月ひとしお

 

亡き父へ()てて携帯メール打つなにから語ろう巡る八月

 

長文の携帯メールを黄泉(よみ)へ書き保存記録をしばしば(のぞ)

 

ほどほどと言う難しさ反芻(はんすう)し (むく)槿()ちり花ひろい集める

 

たまさかに優しい言葉が聴こえきて(よど)みしこころ流れてゆきぬ

 

万物を引き連れ冬へ動きだす(あか)いほうずき武者ぶるいする

 

寒そうに咲き枯れてゆく菊刈れば左の袖口かすかに匂う

 

これまでの価値感わずか変えるだけ草や()の葉の(みょう)なる切れ込み

 

 

 

 

自己目標

 

秋らしい夕焼けですよ月ですよ 逝きたる人とその後を交す

 

陽子()の見馴れし文字の幾葉を古りたれど残す整理の度に   (代表、夫人)

 

辛夷(こぶし)届きいつものところに師の歌の見当らぬなりさびしき冬よ

 

新聞の「いずみ」がえにし(すい)(れい)()茶掛の歌は きくのひとむら  辛夷代表

                                         (野原水嶺)

 

 

ありがたし互いに()りて金婚の日を迎えしよ (しゃ)するを数う

 

ふり返り自己目標は達せしかおもいて(のぞ)むゆうぐれの雲  

 

あの山の向うに幸せ有るような青いあこがれ懐かしむ夕べ

 

四時()かりうとうとねむる居場所()り雀が目覚め今日の幕あく

 

 

若き日の歌を(めく)れば青くさい子等との葛藤なつかしむなり

                            平二八、六、二二 作 八一才

    

ひいまご誕生

 

男だもん頑張るんだもんそんな顔の()(はる)のフォト額に加わる

                            平二八、四月 生

 

 

 

 

第十一合同歌集が出る一年前に退社(結社、通巻七〇〇号が私の最終号となる)

  辛夷(こぶし))に出詠した四年間の作品から選る(平、十八~二十一年(七一~七五歳)作品

 

 

 

あれを終え此れはどうする迷う間もスギナぞくぞく進入してくる

 

まいにちを一生懸命生きてます自問自答の杏酒つくる

 

はいはいと電話のベルに呼応して階段おりきる 一足おくれる

 

何時よりかかちっと切れぬ糸切り歯 首のびし(ぼたん)つけ直したり

 

諦めて楽になりたることに慣れ(ひも)(よじ)れしスニーカー洗う

 

 

 

貴方と私

 

呼んでみて呼ぶほどにあらず苦笑い一人の覚悟いつならできる

 

大声のごときメモ書き残りおりおいてけぼりのそらの(あお)さよ

 

初々しく交した書簡の束を解き笑いと涙の一日くしやくしや

 

楽しげに焦鍋こする(つま)背の可笑(おか)しくもさみし日々流れゆく

 

身につきし(ひと)りよがりの(いたわ)りがかすかな風に(から)回りする

 

この冬が最後と決めてはくスキー寒さ(こわ)さもときめきに似る

 

足が向く先は煙吹く旭岳とらわれし事いともちいさし

 

終日をまこと上手に使う夫 病も味方につけたるごとし

 

(みずか)らの器にこぼれぬ程を盛り燃やしつづける男の夢は

 

消えやらぬ(うも)れ火あおぐ風があり()えて静かに熱くなりたる

 

 

 

旅、 三

 

好奇心ひたひたと満たす()っ国の水平線に浮かべるひと世

 

遺品という貝がら細工が戻りきぬガダルカナルの戦かたらず

 

六十年叔父の遺品は色あせず同じ巻貝と出合うハワイ島

 

色白き人等に()きて真珠湾を私は帽子をまぶかに(かぶ)りて

 

樹々の花、雨もリズムもトロピカル思い出すたび波の音する

 

天童の父祖(ふそ)の生地は柿みのり知る人ぞ()き唯ただ眺めし   (山形)

 

山寺の石(きだ)余にふる紅葉いっしんに登り願い定まる

 

磐梯(ばんだい)山にゆったり()ちゆく朝の月 父を偲びてみちのくを()

 

善光寺津々浦々の方言きく列なすひとりびとりの心中    (長野)

 

()ぜ仏 (おもて)もからだも痩せゆきぬ信濃(しなの)の里の冷たい晩秋

 

 

 

対角線 (氷)

 

長き夜の句点のごとき製氷音言いそびれたる言葉ねむらす

 

氷柱より()れしえぞしか満月の森へ駆けだす次つぎつぎと

 

夕刻の路面に張りだす薄氷にわかにこころ受け身となりぬ

 

小糠雨みぞれに変わる帰り道のみど病む姉病棟にのこし

 

耐えかねて落とす松()のゆきの音見過(みすご)す人の耳を掴みぬ

 

まだ()だともよくぞここ迄とも思う 雪は明日か風さわぎいる

 

改築の騒音頭上へふりそそぐ思考を止めて坐り込みたり

 

熟練の技を繰りだす造作の男の仕事盗み見をする

 

家が()り一病置きて()くあきの自在に変わる雲しみじみと

 

 

 

時間のゆくえ

 

ゆったりと窓を横切るちぎれ雲元にもどらぬ時間のゆくえ

 

増殖するひらひら薄い自己中心進化をめざし(うず)巻いている

 

じゃまをする人生観をおさえ込みおでんの大皿囲みておりぬ

 

不用意な言葉をききて冷えてゆく確証もなき人間かんけい

 

今すこし(ゆだ)ねるところ欲しくなる母は母役()りられぬなり

 

 

死語のごと通用しない価値観を引っ張りだしたり仕舞いこんだり

 

結論が急な中座(ちゅうざ)で途切れたり尻切れとんぼどこへ飛ばそう

 

手も出せず放ってもおけぬ苛立(いらだ)ちの今日も暮れたりぼんやりと月

 

一言がふたことみこと長電話うっ積するものあふれてきたり

 

ふんぎりの付かない事の多くしてトックリセーターまた仕舞い込む

 

 

 

10続き

 

 

 

寝返りさせて

 

犬にして人に近きを看取りおり母の如くに寝返りさせて

 

後を追う子供がえりの老犬の鼻先がぬめりうらうらと春

 

十六年過ごせし犬の要求するきわみのひとこと人語に近づく

 

ひらひらと蛇口の水のむ猫の舌うっとうしい愛するりと抜ける

 

声も出ず人に看取られ永らえる犬たるプライド保ちてやらな

 

 

 

尻尾(しっぽ)の先

 

熱かろう寒かろうとぞ老犬に問いては上着を脱いだり着たり

 

どうでもよい事に追われるうっ積へ犬が口開け頬笑んでいる

 

むげもなく(つぶ)した(あり)の感触を忘れぬ指がパン千切りおり

 

幼子にきりぎりす借りる夏の終わり一夜を鳴かせ草(むら)に放つ

 

犬の骨しっぽの先まで拾いたり(のこ)るアルミの(いい)皿みがく

 

 

 

 

そばの花

 

半袖に蕎麦(そば)の花()でそば食べる約束のごとき夏の一日

 

消しゴムが小さくなるほど訂正し言いたきことば迷路のなかへ

 

ひとつ終りひとつ始まる気掛(きが)かりの処方箋にない日ぐすりありぬ

 

ぱらぱらと数字をめくる置時計「モモ」がささやく時間泥棒 (ミヒャエルエンデ 作)

 

自由になり孤独な人が増えてゆく から松きらきら秋日ちらす

 

雑多(ざった)なる折り込みちらしの裏おもて厚化粧みるごとき朝々

 

まじめ度の加減目盛がほしくなるDNAまでゆきつくきょうは

 

(おろ)かなりぶっきらぼうな一言に(へこ)みしこころ再生はじめる

 

怒りより(あきら)めに比重うつりだす楽になりたき老いは身近に

 

 

 

親鳥

 

緑陰(りょくいん)の川面につうんと巻葉おち魚の口が寄いくるさざなみ

 

若葉ゆれ巣立ちうながす親鳥の育てしことも(くう)なるかなや

 

ごみ袋さげて見とれる寒すずめ()(ぼく)にぎわす命鈴生(すずな)り (共作 慶子)

 

からし()えにするか(いな)かを迷いたるツルムラサキが竿へ逃げきる

 

スイッチを時代の流れへ(ひね)りたり 切りて安らぐケータイ電話

 

見失うおのれを捜す夢さめて自由になりし手足をのばす

 

こま切れな時間を集めすうっと消え(うた)を夢みるわたしのB面

 

いちにちの仕上げのように舞い終えて(とび)の親子が帰る冬山

 

次つぎと己を許しかるくなる飛ばされそうな北風がくる

 

身のまわり何が大事か(しあわ)せか渡りの鳥の()(おと)ききいる