久しぶりに祖母の家に帰った。

祖母は顔に皺を寄せて「おかえり」と微笑んでくれた。

テレビの前に腰を下ろす代わりに、台所の椅子に座って祖母の後ろ姿を眺めた。

とても小さくて、か弱い。でも皺だらけの手は確かに彼女の生きた歴史を物語っている。

私は彼女の物語を知りたくてたまらない。

だって私は、彼女の処女作の1ページだって読めていないのだから。

ある人によると、人は誰でも1冊の小説を書けるそうだ。

ただその人の生きてきた人生を書き記せばいいだけだから。

それならきっとだれもが作家なんだと思う。

でも私はベストセラーにとらわれて、とても身近で大切な人の物語を読まずにいる。

でも今日は違う、祖母と話をするんだ。

でも、なんて言おう、照れてしまう。

 

「おばあちゃん、今日はおはぎが食べたいな・・」

-----------------------------------------------------------------------------

 

「しかし今わかっているのはこういうことだ。人が死ぬと、私たちが悔いるのは、その人とじゅうぶんに話をしなかったということだ。私はお祖母さんと話をしなかった。彼女がどんな人だったかも知らない。お祖父さんもほとんど覚えていない。同じく母も。」

 

ドリス レッシング『 夕映えの道よき隣人の日記 』 集英社、2003年、92頁