○文の姉、寿(ひさ)とは

「今日は、文さんのお姉さん、寿さんの話をします」

「どんな人だったのですか」

「楫取素彦の最初の奥さんで、嘉永六年(一八五三)七月二十六日頃楫取二十五歳、寿さん十五歳の時結婚しました」

「若い・・・」

「どういう人だったかといえば、松陰の言葉をかりますと・・・例によって難しい言葉ですが、敏彗であるだと」

「びんすい・・・」

「ま、知恵があって気が利くと・・・まあ頭がいいのだよと」

「はあ、はあ」

「エピソードがいくつかありますが、怜悧な人という感じですね」

「しっかり者ですか」

「ええ。松陰が江戸に送られ永別する時も、三人の妹のなかでは一番落ち着いて、とり乱したりの動揺は無かったと伝わります」

「えーと、寿さんが、三姉妹の一番上でしたっけ?」

「いや、真ん中。千代・寿・文の順です」

「そうでしたー」

「千代さんの六歳下、文さんの五歳上です」

「ということは、楫取とは、けっこう年が離れているのですね」

「十歳差ですね。そして、禁門の変の後、楫取も獄に入れられた時期があります」

「そうなのですか」

「久坂とか高杉たちと、同列の一味だということで」

「過激派、反幕派だということですか」

「まあ、そんなところです。で、獄に入れられるわけですが、奥さんの寿さんがいろいろ差し入れしたという逸話があります」

「はいはい」

「差し入れしてはいけないのですけどね」

「ん・・・」

「それくらい大胆なわけですよ」

「そーですねー」

「で、妹の文さんを誘って行ったりするわけですよ」

「アハハ、文さんには迷惑な話ですね」

「そうそう、別に文さんは、行く必要はないのですからね。寿さんも、さすがに一人では怖かったのかもですね(笑)」

「そうでしょうね(笑)」

「ただ、文さんは獄と聞いただけで、怖がって役にたたなかったといわれています。その辺、二人の性格の差があらわれています」


「肝が座ったお姉ちゃんだったのですね」

「私の印象では、寿さんはシャキッ、文さんはナヨッという感じ・・・」

「そうですか(苦笑)」

「で、寿さんは獄吏の目を盗んでいろいろ差し入れしたというわけです。例えば、おにぎりのなかにハサミをいれて差し入れしたとか・・・」

「ハサミ!(驚)なぜですかあ。危ないじゃないですか」

「いやいや。ハサミが一番役に立ったからですよ。何とかとハサミは使い様っていうじゃないですか」

「え?ん・・・ああ、なるほど、そういうこと・・・はいはい」

「獄中は、刃物みたいな尖りモノは厳禁ですが、爪切ったり髪切ったり、ほかにもいろいろ役に立つわけですよ」

「はいはいはい、わかりました。そういう意味でハサミなのですね。全然別のことを考えていました(笑)」