◎再婚は許さない

「文が久坂と結婚する時に、松が渡した書(『文妹適久坂氏贈言』)がある・・といいました」

「はい」

「難解な漢文で、苦労しましたが、何とか読めました」


「ほお、すごい・・・」

「その中に、『今世間の礼節は乱れて、再醮改適を恥と思わない風潮がある』という文章があります」

「さいしょう・かいてき?」

「『再醮』も『改適』も、要するに再婚を意味します」

「初めて聞く言葉です」

「つまり、女性が再婚・再縁することを恥かしいことだと思っていないことが嘆かわしい、と松陰先生は言うのです」

「ははあ・・・えー!」

「一度結婚したら、添い遂げろというのです」

「んー・・・きびしいですね(苦笑)」

「そう、文に教え込むのです」

「へー・・・」

「松陰の他の文章に、女性の再婚について書いたもの(『武教講録』)がありますが、こちらはもっと過激でして」

「はい」

「妻は夫に従えというのは、まあ基本です。ですが、妻の立場からすれば、この人とは一緒にいたくないというケースもありますよね」

「そうですね・・・あるかもしれませんね(苦笑)」

「もう、こんなダンナ嫌だー実家に帰りたいと・・・」

「ええ・・・」

「しかし、それは許さない。そのときは、自尽せよと言うのです」

「えー!自尽って・・・そこまで言う!」

「松陰は、女性のわがままを許さないのです」

「きびしいー・・・というか、現代なら嫌われそう・・・」

「まだ続きがあるのです」

「はい↷」

「それでも奥さんが、イヤダ実家に帰るーなどとゴネた時は、周囲が自尽させよ、というのです」

「えー!当時の女性がどういう感覚だったかわかりませんが、文さんにとっては重い、重いですよー」

「恐るべき言葉ですね」

「結婚って地獄!みたいなイメージさえ・・・」

「ほとんど脅かしているようなものだと思います」

「そうですねー」

「それで、古代中国の女性歴史家で班昭という人がいるのですが、その班昭の『女誡』という難解な本を講義して、文に叩き込むのです」

「うえー・・・」

「文は、二十二歳で久坂と死別しますが、その後ずっと結婚しないのです。これは多分、松陰の教えが叩き込まれていたのではないかと思います」

「楫取素彦と再婚したのは、何歳なのですか」

「四十歳くらいですか・・・」

「その二十年間、文さんは何をしていたのか、興味あるところですね」

「ともあれ、この松陰の教えが、結構文さんのトラウマになったように思います」

「どういうことですか?」