初恋はどれほど人の人生に響くのだろう。どれほどその後の人生を影響できるのだろう。きっと、人によってその解釈がぜんぜん違うだろうね。



ラットアップされたクリスマスの東京の街がとてもきれい。あっちこっちにクリスマスのソングが流れている。そのときにはにぎやか、時にはさびしく感じるクリスマスのソングが、いくら歳月が経っても、私と剛が一緒に過ごしたその日の記憶とともに、何度も何度も、私の心に訪ねてくる。剛との恋は私にとっては、真冬に飲んだホットチョコレートのように、思い出すたびに、唇にその温かみと甘みが尽きない。



あれは2000年だろうか。剛と知り合ってちょうど数ヶ月経ったときだった。剛が、瀋陽から北京で留学している私に会いに来てくれた。24日の朝に私はドキドキしながら彼を迎えに行って、人の往来が盛んでにぎやかな北京駅ですぐ剛の姿がわかった。すでに零下まで下がった北京は寒い風が身にしみる。そんなのもあまり感じなく、ベージュー色のハイネックセーターを着ている剛の格好よさに目を離せられず、ただただ恋に落ちていた。



初めて初恋の中国人の恋人と過ごしたクリスマス。



どのようにその日を過ごすか、彼も私もそれほど考えていなかった。一人部屋とは言え留学生の寮は訪問者の宿泊を一切受け入れないし、ホテルというアイディアはちょっと頭にあったのかもしれないが、剛と知り合ってから3回目のデートで、キスもまだしていないのに、いきなりホテルに行くのは、彼も私も多少気まずく感じて、誰もそのアイディアを口に出さなかった。中国のホテルに男女が一緒に入る場合、結婚証明が必要だそうで、でなければ売春だと見られて捕まる可能性があるという説が留学生の中で広く伝わっている。本当かどうか剛に確認する勇気もそのとき恥ずかしくてなかった。



とりあえず北京駅すぐそばのケンタッキーで昼食を食べることにした。今振り返ってみると、日本人にとっては安いファーストフードは、剛のような中国の地方から来た学生たちにとっては、高級かつ高価なレストランだったのだろう。彼は列を並んで、セットを取ってくれて支払いも一緒にしてくれた。「自分の分を出すよ」と言ってみたら、剛が少し怒った顔をして、「中国では男が女の子にお金を出させるわけがないよ」と言った。剛は大きな目をしていて、肌色が焼けたせいかとても黒い。剛の声がチョコで作られたカステラのように、少しかれているけどとても滑らか。



簡単に昼食を済ましてから剛は私が留学している大学に行ってみたいと言ったので、私たちはバスで北京の東側にある外大に移動した。学校は小さいため、10分もかからず見学は終了。留学生会館のロビーで入館時間と名前を記入して、私は剛を自分の部屋を案内した。



急に二人きりになって、何をどうしたらいいのか、私はお茶を飲むか、コーヒーを飲むか、ホットチョコーを入れるかとしどろもどろで緊張していた。私と比べて、剛は女の子の部屋に不慣れはなさそうで、部屋に入ったらすぐコードを脱いだ。



私は子供の頃から、ハイネックのセーターに合う男が格好いいと思う。せいの高い肩の広い剛は、まさにそれにぴったりな体格している。いや、そのベージューの縦皺のハイネックセーターが、剛にぴったりだった。そんなコードを抜いて椅子の背中にかけている剛の後ろ姿を見て、後ろから強く抱きしめてみたかったけど、それも当然する勇気がなく、コーヒーを入れたコップを持って彼のしぐさをこっそり幸せに眺めていた。人生の中で、初めて彼氏できたことのうれしさと彼への恋心を、コーヒーを啜りながら味わっていた。



「北京は瀋陽よりずっと暑いよ!ズボンを脱いでいい?」と剛はコーヒーを一気に飲んだあとにそういった。「は~?」「いや~」「は~?」なんと返事したらいいのかわからなくて、顔がひりひり熱くなった。「ははは」剛は笑った。「瀋陽は零下20度もあったから、毛糸のパンツを中に着ているからさ。」剛は私の誤解にすぐ分かって、笑いながら説明した。



剛はズボンを脱ぎ始めると、私は背中を彼に向けた。剛はきっと彼女がいたのだろうね。女の子の部屋に来ても、女の子の前にズボンを脱いでも、ごく自然で照れることもなかったから。



「徹夜列車で寝られなかったから、少し仮眠してもいいか?夜のためにさ」と剛は意味がありそうな、なさそうな口調で背中向けの私に言った。「もういいよ。君も少し一緒に昼寝しない?」その話を聞いて、私は振り返って剛に向けた。そんなに早くベッドに行くとは思わなかった。期待していなかったというのもうそだけど。剛はセーターも脱いて、中国人がよく着ている保温の上下セットの肌着姿になった。もちろん下はパンツではない。日本でいう股引のようなものだった。その姿が、中国テレビでよくみる保温下着のコマーシャルのように、人に暖かさと安心感を与える。一瞬、剛が自分の旦那でもう一緒に生活しているという錯覚が湧いた。



剛と小さなシングルベッドで、付き合ってから初めてのキスをした。私は服を脱ぐ勇気もなく、セーターとジーパンのままで剛の胸に入って、やさしく包んでもらった。ごく自然の流れのように、剛が片手は腕枕として私の頭を囲んで、片手で私の顔に当てた。そして、私たちキスした。剛の唇が暖かくて力強い。私の唇と重なるときは少し強引の部分もあるけど、リードされている感じがちょうどいい。剛の下半身が熱くなっていることもジーパンを隔てて感じた。剛の舌が絡めてきたとき、私が溶けたように力も自分も感じなくなった。

(続き)


























 外は雨が降っててとまらない。
 数日前に3年間も付き合って彼からいつも二人がデートしていたbarでプロポーズされた。
 結婚か~いよいよ私も。と思ったものの、なぜかその場でYESを言えなかった。
 彼はすごく悲しんだのだろう。
 それ以来彼から連絡が来ていない。私からの連絡を待っているのだろうか。



 彼と結婚したくないわけでもない。
 都内の大手銀行に勤めてて経済力もやさしさもある。来年アメリカのロスに出向することが決まっていて、そのために彼は結婚を決意したのだろう。

 彼と付き合っているこの3年間、特に大きな波もなく、湖のど真ん中に彼が漕いでいる穏やかなボードに乗っている感じで、居心地がとてもいい。週末に一緒に映画を見たり、食事したり、その後ラブホでセックスをしたり。ロングバケーションのときに彼がベンツで私を福島だったり東北だったりドライブを連れててくれる。温泉の後のセックスは温かみがあって、大雪の冬にストーブが燃えている部屋に入って一瞬めがねが曇ってきて何も見えなくなったときの感じ。

 一緒に暮らしていないこともあって、デートするときも旅行のときも一日必ずセックスで句点を打つ。もちろん、彼はよく「愛しているよ」と言ってくれる。



 友達はみんな彼をゲットした私をうらやましがっているようだ。



 けど、あの夜彼がプロポーズしたときに、なぜかその場でYESを言えなかった。

ほら、シンデレラの水晶の靴を拾って、その靴に入る女性ではなく、その靴にびったりの女性を探しまぐった王子がいたじゃん。なんか、結婚って、そんな感じじゃん。
その人だったらではなくて、その人だからというものではないの?



 彼はプロポーズのときにそう言ったの。「アメリカに行っちゃうから離れなくないんだ。一人で海外に赴任なんてさびしいもんだ。君に一緒に来てほしい。」
なんか、それでがっかりしたかもしれない。「誰もいないからさびしいんだ」と聞こえたの。「誰かいないからさびしいんだ」じゃないんだ。
 よく、男が結婚する目的は定期的なセックス関係を維持したいというじゃん。なんか、そんな彼の寂しさを慰めるものと性欲発散するための道具になりたくない。



 外降り続けている雨を見ながら、私は彼にメールを打った。
 「一人でアメリカで過ごす日々がさびしいかもしれないけど、それでも毎日毎晩私を思い続けるのであれば日本に戻ってきた頃に結婚しよう。」