妄想ですよ
俺は...翔君の体に傷を付けてまで
生きたいとは、思っていなかった...
寿命だから...
これは...母ちゃんからもらった俺の寿命...
きっと、この命の長さにも意味があるんだと思うから。
翔君から内臓の一部をもらってまで...生き延びていたくはない...翔君には、この先も元気に生きて欲しい...
それなのに...俺の言う事を聞いてくれない翔君...
もう、俺が居なくなればいいんだと...今思えば馬鹿な事を繰り返したけれど、その度に...翔君は俺の隣に居た...
『俺を死なせなくないなら...移植を受けろ』
と、繰り返した。
何度目かには、この人は本当に俺と一緒に死ぬ気だとわかった...
もう、どうしたらいいのか分からなくなっていた頃......俺を助けてくれたのは...
翔君のお母さんだった...
母『何をそんな大層に考えてるのかわからないんだけど...』と前置きの後
母『私ね、昔...親知らずを移植したの』
親知らずを?移植??今、その話?
母『奥歯がね、虫歯になって。もう抜くしかなかったの。そこで、先生が提案してくれたのよ。
自分の立派に生えている親知らずを抜いて虫歯で抜く奥歯に移植しませんか?って。
そんな事できるの?って思ったけど、出来たのよ。今も、私の奥歯は健在よ!』
一体...この人、何の話してんだろう...
母『あのね、よくお聞きなさい。
翔が貴方に提供するのは、無くても翔のこれからに影響のない腸の入り口付近のほんの一部なんでしょう?
私の親知らずと同じと考えなさいよ。
あっても邪魔じゃないけど無くても問題無いものが...貴方を助ける事が出来るなら...移植を受けなさい。
さとちゃんが言う『“絶対“ はない』、それは、そう。
でも...このまま、何もしないで時間を縮めるような過ちを見過ごす事は出来ないの。
貴方も、私の息子。
母親の断りもなく命を粗末にする事は...許しませんよ』
翔君のお母さんがいう“親知らず“の例えが俺にはイマイチ理解出来ないのだけど...なんとなく伝わった...。
このまま何もしなければ...確実に近い将来...母ちゃんと再会する事になる
それなら...翔君と生きる未来を描いてもいいだろうか...
実は怖がりの翔君が...手術なんて、耐えられるのかな...
まだ、二の足を踏む俺に松岡先生は決定的な一言を投げかけた。
『櫻井君の手術では小さな傷が残るだけで彼のこの先に何の影響もない。
むしろ...将来、もしそれを激痛の末に摘出手術するより櫻井君にとっては、悪い事ではない』
と教えてくれた...