ー翔ー



あれから...4年か...


東京へ戻る新幹線の窓に映る朝日を眺めながら思い返した...


俺は...元嫁と義弟を許すつもりはなかった


徹底的に叩き潰してやるつもりだった。


もし本当に子供が俺との子ではないのなら...足元から粉々にしてやろうと...。

そして、智君への傷害事件も実行犯諸共...世間から抹殺してやろうと...


でも...博君に諭された...


何が一番大切なのか...冷静に考えろ、と。


そんなもの...決まっている

俺が一番大切なのは智君だけだ...


“後の事は自分に任せて、智君のそばに付いていろ” と。


博君の言う事はいつも正しくて...。


元嫁と義弟に無駄な時間を使うより

智君のそばにいたい…


博君が会社に戻って来てくれるなら全て安心出来るし、俺は智君のそばにいれる...


⭐︎


時が経ち...邪魔な奴らを遠ざけ、平穏な日々が訪れようとした頃、本格的に松岡医師の治療が始まった。


世界でも珍しい症例

長く難しい検査を繰り返し、漸く手掛かりが見つかった...



松兄ではなく...俺の体の一部が智君を助ける事が出来るという事が判明した...

それは同時に...やはり、俺たちが兄弟である事を確実なものにしたのだけれど...


その事よりも今は智君の命だ。

俺達が兄弟だとしても...

もう...兄弟としてでしか...一緒に居られないとしても...生きていて欲しい


智君は俺の体にメスが入る事を全力で阻止しようとした。

全力...で...。

何度も話し合い、それでも理解してくれず...何度も何度も自ら死に向かおうともした


その度に俺も...同じように

ビルの屋上に立ったし、荒波に歩を進めた事も...


実際...それでもいいと思った


智君がもう生きていくのが辛いなら

二人で時を止めるのも...それが望みなら一緒に逝く覚悟は持っている



決して...智君は死にたいわけじゃない

そんな事、分かっている...


俺の体に負担をかけてまで生きたいとは思っていないだけで...納得させるのに...実は何度も衝突した...