仕事なんてしている場合じゃない...

しかし、俺の立場がそれを許さない


海外での大きな仕事を終えて帰路に着く飛行機...頭の中でこれからの事を組み立てる
脳細胞が音速かつ冷静に駆け巡る


優先順位の先頭は智君を置く
そして、博君に心から謝罪し戻ってきたもらわないと...あの人がいないと俺はポンコツ...今回の出張で思い知った...
新しく来てくれた秘書も優秀だが...博君に優る人材なんて...いない...
ちゃんと分かっているのに...頭に血が昇って酷い事を言ってしまった...

博君の指摘通り...3秒でキレるという根本は
そう簡単に変わらない...

翔「日本に降りたら、その足で長野さんに会いに行く。連絡しておいて」

秘「長野さんですか?..もう、お辞めに...」

翔「そんなはずないだろ?まだ、月も半ばだろ?辞めるにしても中途半端だろ?」

秘「しかし...月末まで有給消化との事で、昨日が最後の出勤だったようです」

翔「ちょっと、待て...。有給消化はいいけど、引き継ぎとかあるだろう?」

秘「長野さんは...常に自分の仕事内容を私達下の者に共有してくれてました。ですから、今回、急に社長秘書に抜擢されても特別に引き継ぐ事はそう多くはありませんでしたよ」

翔「...もう、いい...自分で連絡する」


空港に着いて、直ぐに博君に電話をしたが、既に解約されたのか繋がらなかった


翔「クソっ...‼︎
俺は...退職なんて認めていないぞ...勝手に辞めて...何を考えてんだ」

秘「...何千といる社員の退職を社長が一々管理されてはいないでしょう?人事の全ては人事部長の決裁です。ウチの課としても長野さんの退職は大きな痛手です...秘書課は今、大変な状況ですよ」

そんな事も知らないのですか?と、呆れた顔の秘書を無視して、タクシー乗り場に向かう

秘「社長!どちらへ??迎えの車が間もなくこちらに着きます。もう少しだけお待ちください」

別に迎えの車が間に合わなかった事を怒っているのではない。そこまで難しい人間ではないのだが...

翔「行きたい所がある。君も社に戻るなり帰るなり好きにしてくれていい。
明日まで連絡はしてこないでくれ」


俺は、タクシーのドライバーさんに
行き先を博君の住んでいるマンションと告げた