月だけが見ていた。
誰もいない道をただひたすら歩く僕を見守るように。


何をするわけでもなく。
ただただ前を向いて歩いていく僕を見ていた。


ふと何気なく空を見上げてみると。
夜が力尽きて少しずつ闇を手放していった。


押し潰されてしまいそうな夜は突然終わりを告げて。
空には光がこぼれだし、僕の元にも朝が訪れた。


星の光はもう見えなくなっていて。
明け方の白い月だけが空に残っていた。


月が残った空を見上げながら僕はただ一人で。
少しずつ空が明るくなっていく中を歩いた。


まるでこの世界には月と僕だけしか存在しないような。

そんな不思議な感覚に陥ってしまいそうになった。

すべてを凍らせ、吹きすさぶ冷たい風のように。
心はすっかり冷え切ってしまっている。


こんなに冷静に客観的に見ることができるなんて。

以前の僕ならきっと逃げてしまっていただろう。


こんなに他人に冷たくできるなんて知らなかった。
本当はこんな自分に気づきたくなんてなかった。


心の中でいつも冷ややかな目で見ていたとしても。
実際の態度には出さなかった。出せなかったから。


それでも、他人を傷つけることの痛さを知っているから。
傷つけられる事がどんなに痛いことなのか知っているから。


だからこそ、あえてこの道を選ぼう。

結果として誰かを傷つけてしまったとしても。

優しさって何なんだろう。
人を傷つけない事が優しさなのかな。


人を傷つけないように傷つけないように。

ここまで歩いてきたけど。


自分のことさえもちゃんと考えられない。

そんな人間が他人のことを考えられるはずがない。


中途半端な優しさはより深く人を傷つけるだけ。
そんなこと、ずっと昔から知ってたはずなのに。


人間は愚かな生き物で。

同じ過ちを何度も何度も繰り返していくのだろう。

僕は人との距離をうまく保つことができない。
いつも同じ距離を保ち続けることがすごく苦手だから。


近づきたい時もあれば、放っておいて欲しい時もある。
僕はそれが他人に比べて激しいのかも。


自分からちょっとずつ近づいていくクセに、
相手がある程度まで近づいてくると逃げてしまう。


干渉されたくない時に、構わず近づいてくる人もいる。
そんな人は特に避けてしまう。関わることが怖くて。


自分が傷つきたくないから。
相手を傷つけようが、自分は逃げてしまう。


やっぱり僕はワガママな人間なのかな。

人間は1人では生きられない。それは分かっている。


だからと言って、いつも誰かと一緒にいると息が苦しくなる。

だからこそ、1人の時間も必要。僕はそう思う。

手に入れたものをきっといつの日か失うことを知りながら。
それでも、僕たちはいろいろなものを抱えながら生きている。

僕たちはいろいろなものを手に入れては失いながら一生を終えてゆく。
欲しいもの全てを同時に手に入れることは決してないだろう。

なぜなら、僕たちの持てるものの数には限りがあって、
何かを手に入れる時には、何かを手放さなければならないから。

幸せもまた同じなんじゃないだろうか。
何かを手に入れると、代償として何かを失ってしまう。


僕たちがこの世に生まれてきた瞬間に、
掴める幸せの大きさは既に決まっているのだろう。


たとえ、掴める幸せの大きさが決まっていたとしても。
幸せを掴もうとしない人間に幸せは訪れることはないだろう。

目の前まで持っていってこれが幸せなんだよ。
と見せてあげられるかもしれないけど、掴むのはその人自身だから。

きっと両手には抱えられないような幸せを掴む人もいることだろう。

他人から幸せそうに見られていても幸せじゃない人もいるだろう。


歩いていく道にたくさんの幸せをこぼしながら、
周りの人間を幸せにしながら歩いてゆくような人もいるだろう。


できることならば、自分の幸せを追求するよりも。

誰かを幸せにできるような人生が送れるといいなと思う。

突き刺すほどに寒い日の透き通った朝の空。
絵の具を少しずつ溶かすように色づいてゆく。

抜けるような空はどこまでも続いているような気がした。
この空には果てなど存在しないかのように透き通っていた。

空の色はは青ではなく透明に似た水色だった。
雲ひとつない晴天の青い空と緩やかにゆらめく海がそこにあった。

ただ見ているだけで心が晴れていくような気がして。
どんな悩みも解決してしまいそうな気分になる。

こうして穏やかな朝が始まっていった。
そんなとある一日の優しい始まり。

このままずっと悩んでいても何も変わらない。
今やるべきことが他にあることにようやく気がついた。


前から分かってたけど、考えないようにしていた。
弱い自分は甘えてばかりで、やりたくないことから逃げ続けていた。


このままずっと逃げたままではいられない。
いつか立ち向かわなければならないのなら、今から始めよう。


頑張ろうと思えば思うほど、気持ちだけが焦る。
だからと言って、立ち止まっていたら取り残されてしまう。


一歩ずつでも少しずつ少しずつ前へ進もう。

つまずいたっていい。僕には輝かしい未来が待っている。


ふと、歩いてきたこの道をいつか振り返る時。
懐かしく思い出して、笑える日がきっと来るはずだから。

誰もが心の傷を抱えて暮らしている。

もう既に癒えてしまったものもあるだろう。


傷口は塞がっていたとしても、奥深く広がる傷もあるだろう。

ふとした瞬間に治っていない傷に気がつくこともある


他人につけられた心の傷は痛いけど、
他人の心につけてしまった傷は倍になって自分に返ってくる。


自分を責め、自分に刻んでしまった傷は、痛い。
深く、そして哀しいものだから、癒えるのも遅い。


こうして大きな傷や小さな傷を抱えながらも、
人はこうして歩いていくことを決して止めないんだ。


いつか、傷が見えなくなる日が来たとしても。

本当に治ったのかどうかは分からない。誰にもきっと。



些細なことで落ち込んでいた僕は、
友と別れた後、冷たい風が吹く帰り道を一人急いでいた。


信号待ちで立ち止まり、冷えきった手をポケットにつっこんで。

ふと見上げた空にはたくさんの星が輝いていた。


ほんの少しの時間、ただ広がる星空を眺めているだけなのに。
自分の悩みなんて、本当にちっぽけなものだと思えた。


歩いてきた道を振り返ることもあるだろう。
時には足を止めて一休みすることもあるだろう。


歩いていくスピードは人それぞれ違うものだし、
前だけを向いて歩いていくことなんて、きっと誰もできやしないから。


時に振り返りながら、まっすぐ前を向いて一歩ずつ歩いていくこと。
きっとそういった小さなことの積み重ねが大切なんだと思う。



何かあったわけではなくても、不意に落ち込んでしまうことがある。
それは誰にでもあることなのか、自分だけのことなのかは分からない。


いつだって、その暗いものは予期せずしてやってくる。

それは、突然やってくる驟雨のように。


秋の雨のように細く長く降り続くこともあれば、
一気に降った後には、虹の架かる空のように晴れ渡ることもある。


何に悩んでいるかさえも分からないことに悩んでしまう。
それがいつまで続くのかと弱い心は恐れてしまう。


雨上がりの空がきれいなのは、雨がすべて洗い流してしまうから。
心の中のもやもやも、同じように心に降る雨が洗い流してくれる。


夜明け前の空が最も深い闇のように暗いのは、
夜が明けるために暗い夜を乗り越えなければならないから。


重く沈む心は悩みを乗り越えるためには必要なんだ。

神様は乗り越えられない試練を与えない。


今はこの雨が通り過ぎることを祈るばかり。

雨はいつかあがり、光射す日は必ずやってくるのだから。