BL です…

間違えて開いてしまった方は

そっと閉じてください…



※表紙のお写真は

ララァさんのお写真をお借りしています。


※ハッシュタグは

蓮さんからお借りしています。



お二方とも

快く許可していただき

ありがとうございました。





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あぁ…もう…



「はぁ…」



鞄の中にあるものが

気になって気になって

どうしても鞄に手が伸びて…



気がつけば

布地の上から触っている。



時期的に

溶けはしないだろうけど…



あぁ…もう…

オレの頭の方が溶けてしまいそう…



何度ついたかわからないため息が

また一つ…口から溢れた。



「お疲れ様です…」


「おう♪︎お疲れ♪︎」



ロッカーで私服に着替えて

店名の入ったエプロンを着けて

事務所のタイムカードを押しに行くと



丁度

タイムカードを押し終えた

オレのため息の原因が

何やらご機嫌そうに挨拶を返して来た。



「先輩、何か良いことあったの?」


「んふふ♪︎別に~♪︎」



別にって言ってるけど

顔が物語っている…



「今日はあったけぇなぁ♪︎」


「そうだね…」



今日は2月というのに

セーターを一枚羽織れば

過ごせそうな陽気だった。



どうせ…

学校で沢山もらって来たんだろうな…



今さら

せっせと手作りまでしてしまった

自分が恥ずかしくなり

かぁっと身体が熱くなった。








高校生になり、始めたバイト

通学途中のスーパーの品だし



その人はオレの一つ上で

オレが入る一年前からバイトをしている。




オレと背丈は変わらないのに 

重い物なんか代わりに運んでくれたり

色々と助けてもらっている。



「持つのにコツがあんだよ」



お礼を言ったら

なんて笑ってたけど



それだけじゃないのは

その引き締まった腕と

たまたま見てしまった

見事に割れた腹筋でわかった。



最初は…

先輩すげぇ!

ってだけだったのに…




オレの見た目なのか

変に絡まれることが多くて



バイトを始めて一週間くらいのその日も

帰りの駅前で二人の男が絡んできて…

細い路地に無理やり連れこまれた時



「おい…俺のツレに何してんだよ」



オレの肩を掴む男の腕を捻りあげ

助けてくれたのが先輩だった。



初めて聞くドスの聞いた低い声と

睨み付けるその眼差しだけで

射殺せるんじゃないかって双眸の光…



二人はそそくさと逃げて行った。



「あ、ありが…」


「はぁ…びびったぜ…」



そう言いながらも

震えるオレをぎゅっと抱き締めた

先輩の声がいつもと変わらず

優しくて…温かくて…



オレは逆にどきどきが

止まらなかった…



それ以来シフトが合えば

駅までは一緒に帰るようになった。



先輩の家は駅の反対側

オレはバスに乗って帰る。



大丈夫だって言ってるのに



あの日以来

バスが来るまで

先輩は付き合ってくれる。



二人で学校であったこととか

他愛ない話をしあった。



ため口の方が良いって言うから

二人の時はため口になって



オレがバスに乗り込み椅子に座ると

先輩が手をあげるから

オレも小さく手を振ると



満足そうな顔の先輩を残して

バスは動き出すんだ…






年も改まってしばらくした頃

いつものようにバス停で待っていると

先輩が言った。



「…俺…

バイトは3月までだから…」


「えっ……」


「ほら…バス来たぞ」


「あ、うん…じゃあ…ね」



その後は

気がつけば家だった。



4月から先輩も3年…

先の事考えなきゃだもんな…



先輩が居なくなる…

バイトだから当たり前なんだけど



なんだか凄くショックで…寂しくて



今まで先輩が卒業して行く時に

こんな感じになることなんてなかった。



自分の気持ちをもて余して

学校の同級生にも

八つ当たりしまくってたら



ある日

やれやれというように肩を竦めて

そいつが言った。



「それってさ?

お前がその先輩のことが好きだから

余計に寂しいんじゃね?」



目から鱗だった…



ずっともやもやしていた視界が

ぱあっと晴れたようだ。



今まで好きになったのは女の子だったから

全く考えてもいなかった。



そうか…

そうだったんだ…



先輩が居なくなるまで

あと…ひと月。



2月にはバレンタインデーがある

だから、オレも最後に!って意を決した

…………んだけど…



やっぱり迷惑…かなぁ…






バイトが終わり

駅まで二人で歩く。



さりげなく先輩の鞄を見ると

いつもと変わらない薄さに見える。



一度

家に帰って…置いて来たのかな?



ばちっと先輩と視線が合い

慌てて目を逸らした。



「何だよ♪︎」


「いや…別に…」


「変なやつだなぁ♪︎」



先輩はまだご機嫌そうに

鼻歌なんか歌っている。



無駄に格好良いんだから…



急に

なんだか悲しくなってきた…



「お、おい、どうした?」


「え?」


「何で…泣いてんだ?」


「…え?」



先輩の指が頬を滑ることで

初めて涙を流していることに気がついた。



「あ、あれ…何で…オレ…」



拭っても拭っても溢れてくる涙…



「ご、ごめ…ごめん…なさい…

オレ…先行きます」



頭をさげて

鞄を握りしめて走り出そうとした時

背中に温もりが感じられた。



「待って…」



耳元で聞こえる先輩の声…



「え?あっ……オレ…帰…」


「その鞄の中の…俺にじゃないの?」


「え?」



驚いて後ろを振り向くと

唇に柔らかな感触が降りてきた。



「え?あっ?へ?」



先輩が驚いて固まるオレの身体を

くるっと先輩の方に向ける。



先輩の真剣な目が

真っ直ぐオレを捉えている。



「俺の…じゃないの?…」


「ふ…先輩の…です…」


「さっさと渡せっての♪︎」


「うぅ…なっ…なんでぇ…」


「教えてやっから

いい加減、泣き止め…」


「う…うぅ…」


「泣き止まないと…ちゅうするぞ♪︎」


「ふ…うぇ?…ん…んぅ…」



先輩が

オレをぐいっと引き寄せて



チョコを渡す前に

…大人のちゅうをもらった…






「んま♪︎」


「良かった…です…」



ちょっと…

そのままじゃ帰れなくなって…



先輩の家にお邪魔している。



新しいパンツをもらって

シャワーを借りて…

制服のズボンに着替えたオレは



改まって

先輩の部屋でチョコを渡した。



「せっ先輩

なっ…何で…チョコ持ってるって…」


「ん?聞いたから♪︎」


「え?」



オレが先輩にチョコを作るって

知ってるのって…あいつだけ…



「え?

先輩、あいつ知ってるの?」


「あぁ、あいつ

俺の親友のカレシだから♪︎」


「えぇ!」


「んふふ♪︎

お前がなかなか気づかないから

背中押させたった♪︎」


「えぇ…」



世の中は狭いって言うけど

狭すぎない?





END