「うぉ~、30分で世界が落ちている!」
6日の深夜3:30過ぎというより、7日の明け方。
風呂から上がると、蒼井カズヒトは、ダウ工業株平均のリアルタイム・チャートを見て絶叫した。
その蒼井に、飼い猫のトミコもビックリして、大きな目をキョロキョロさせている。
リーマン・ショックの悪夢が甦ってきた。
ギリシャ不安の再燃で、ネット・トレーダーたちの俗語である「ナイアガラ」をチャートはきれいに描いていた。
ダウは瞬間、9.19%の998.50ドル下落し、9,869.62ドル。
ドル円は一時88.95、ユーロ円は110.49を付けた。
ただし、株に関しては、シティ・グループのトレーダーが誤発注したとされ、10,520.32ドルまで戻して終えた。
1,000ドル下がって、500ドル戻しで終わる大波乱。コンピューターによるアルゴリズム取引も影響している模様。
東京の株式市場は、連休谷間の2日間で700円下げた。
これは、もはや仕方のないところ。
4月5日をピークとして、マーケットの半ば望んでいた調整局面とはいえ、ちと下げ過ぎ。
10,500円で止まらなかったので、節目の10,000円。そこを突破すれば、昨年11月27日に付けた9,081円まである。
先週の蒼井。
6日(木)、GW中にホールドしていた日立(6501)を損切り。下げきったと思われたところで、短期反発狙いでループで日立を「買い」。
7日(金)、前夜のニューヨーク市場の動きで、朝から諦めの損切り。
2日でマイナス28,000円は、今年最大のドローダウンだ。
それでも、蒼井は先月28日の朝、S&Pがギリシャ国債を2段階格下げしたニュースを知り、新興国株の投資信託を売却していた。
昨年は、中国、インド、ブラジル、香港、シンガポール株は絶好調で、70%の複利をもたらしてくれていたにもかかわらず、あっさりと全額解約した。
それは、リーマン・ブラザーズが経営破綻のときに、アメリカの一証券会社だけの問題とされ、与謝野馨など「蜂に刺された程度」と言っていたが、世界中のマーケットは瀕死に追い込まれた。
しかも株だけでなく、為替、債券、原油、金、すべての金融商品が売られ、円だけが買われた。
「あのときと同じ嫌~な予感がすんな~」と、考えるのではなく感じた蒼井は、ソッコーで投信の売却をクリックした。
これが大正解!
30日(金)、中国は預金準備率を0.5%上げた。
世界の株価が、現在同時安になっているのはギリシャだけでなく、こうした中国の出口戦略の動きも寄与している。
蒼井は、リーマン・ショックの最中、毎晩アメリカ市場のチャートを見ていた経験が生きたよう。
沈没船のネズミ、大地震のミミズの如きである。
「上がった、もっと上がれ!」と脳が歓喜したら売り時。
「いったい、どこまで下がるんだ?」と脳が恐怖したら買い時。
アメリカの著名アナリスト、J・ツバイクの投資家心理戦略で言えば、脳の扁桃体が恐怖をビンビンに感じるまで、「買い」を入れるのは待ちにした方が良さそうだ。
6日の夜、蒼井のアパートのドアを誰かがノックした。
「誰かな?」と蒼井は魚眼レンズを覗くと、そこには「外遊」から帰国したての浜野カナが立っていた。
彼女は成田に到着するなり、タクシーに乗って東京西部の郊外にある蒼井のアパートに来たようだ。
「はい、アオイ君、ツェフのTシャツ」
「あ、すんません・・・」と想定どおりのお土産だったので、愛想程度に礼を言いかけたところ、「TO KAZU」と添えられたペトル・ツェフのサインあった。
「え?マジっすか?」と驚く蒼井に、左の頬を吊り上げて笑みの表情を浮かべただけの浜野カナ。
何人かの人間と幾ばくかの金を介在させて、手に入れたに違いない。
当然、本人が大好きなジョン・テリーのサインももらっているのだろう。
「一生の宝物にします!」と喜んだ蒼井。
そして、「何とお礼を言ったら・・・」と顔を見上げると、首に手を回され、フレンチではない方のキスを10秒ほどされた。
「これで、いいわ」とだけ言って、待たせているタクシーに乗って行ってしまった。
ポカンとする蒼井。
「ニャー」とだけなく猫。
実は、蒼井。
浜野カナとキスをするのは2度目のこと。
2001年9月11日、誰もが知っているニューヨークのあの日以来である。