蒸し暑い初夏のある日
たった一度だけ『彼』と
デートしたことがある


休日は家で
のんびり&ごろごろ
ためていたDVD鑑賞
配偶者とは別行動で
まさに引きこもりだと

普段から言っていた


ソレナラ、タマニハ
デートシヨウヨ

言えなかった




そんな『彼』が仕事の
関係で休日に出ると聞き
チャンスを活かすことに



多くの人が行き交う駅で
スーツ以外の『彼』が
現れるのを、30分前から
待っていた



いつも私が
“待つ”立場だったが
苛立ったことはない

遠くからでも分かる長身
ゴメンね遅くなって
と、照れ臭そうに現れる

まだ2分あるよ…




その日の『彼』は
白いザックリとした
シャツにジーンズ
いつもの香水が微かに
香る胸に、遠慮がちに
飛び込んだ私

お互い
会社と違う雰囲気に
最初は少しぎこちない

中学生の
初めてのデートのよう



事前に数時間かけて調べ
予約したレストランで
よく冷えたワインと
コース料理

昼間からほんのり頬を
染めて、水族館、
公園散策へと

限られた時間をひとときも離れず、精一杯大切に過ごした


外にいるだけで汗が噴き出すのに、二人の間は
その何倍もの温度に
なっていただろう

暑っくるしいねぇ
笑いながら
抱き合って歩いてた



待ち合わせから駅で別れるまで、5時間とすこし

私達には訪れる事はない
そう思っていた時間
まさに夢の中のように
ふわふわとした時間


あんなに素敵な休日
何年ぶりだったのだろう




あの日、記念にと
水族館で『彼』が買ってくれたガラスの置物


いまでも
きれいに並んでいる


休日会うのは
最初で最後になった

記念品はあの日のまま…