ザギトワさんはとにかく体が重そうに見えた。ジャンプのURはともかく、ステップ、スピンもスピード感なく、軸もぶれ、倒れそうなコマのようだった。調整がうまく行っていなかったのだろう。お昼寝ができなくて体が全然動かなかった前日の紀平さん状態だったのかも。彼女は不機嫌にKiss& Cryを立ち去った。

 

 彼女は2018年のロシア選手権でジュニアだった3狂に破れ、5位に甘んじたことがある。このGPFの場でそれが再現されるのを予感していたのかもしれない。たとえ3A やQuadがなくともベストな状態の彼女ならFSで150点台後半はマークでき、トータル230点台の後半に乗せることもできた。まあ、これまでのザギトワさんの滑りの中ではワーストとも言える演技を目にしてしまった。

 

 平昌オリンピックの頃の彼女は赤いバレリーナのような出で立ちでまるで無邪気な子供であった。当時チャンピオンだったエフゲニアは、どうして彼女を五輪に立たせたのかとエテリコーチを責めたそうだ。お門違いな発言とはいえ、おそらくエフゲニアは五輪で金メダルを取る最初で最後のチャンスだったことを自らわかっており、同門のザギトワがそれを阻んでいるのだから。ザギトワは北京で頑張ってもまだ19才。今回は自分に金をと考えたのだろう。

 

 果たして、エフゲニアはロシアでの競技者としてのピークを過ぎたものとなってしまい活路をオーサーの元に見出そうとした。当時、エフゲニアが羽生さんを贔屓にしていたことから色恋沙汰の移籍かなどと騒然となった事もあったが、エフゲニアにとっては自分の選手生命をかけての移籍だったのだと今になればわかる。この2年間の苦悩の果にエフゲニアはようやく再生の緒を見つけ、競技者として復活しつつある。彼女の「私には健康を取り戻す必要がありました」という言葉が重い。女性としての体格に見合った栄養、体力、技術をscrap and builtしたのだ。

 

 エフゲニアの問題は、今ザギトワがまさに直面している問題でもあろう。セルフ・コントロールができる方とお見受けするので、今の環境を変えずに克服できるかもしれないが。息の長い選手として皆に愛されてほしいものだ。

 リプニツカヤ、ラジオノワといった一時脚光を浴びながら、選手生命が短かったロシア女子選手。彼女らが今それなりに幸せそうにしているのはなによりだが、リーザのように10年現役でなおトップを張っている姿がやはり健全だろう。