平昌オリンピックでスノーボード・ハーフパイプ競技の準決勝後、平野歩夢選手は、「まだ引き出しはあるので」、みたいなセリフとともにニヤッと笑った。で、決勝の滑走順は後ろから2番目。最終滑走はショーンホワイトだ。平野選手はオリンピック前にXゲームで披露し、「ワオ、彼はどこの惑星から来たんだ」と実況者に言わしめた離れ業である FS ダブルコーク1440 とCAB ダブルコーク1440の連続技を決勝で成功させ、金メダルは確実か、と誰もが確信した。が、最終走者のショーンホワイトは、FSダブルコーク1440とCABダブルコーク1440をぶっつけ本番で成功させ、金メダルをものにした。平野選手は、自分は滑りで表現するので、誰もが黙るような技で優勝したいです、とオリンピック前に語っていた。ショーンが同じ技をぶつけてくるのは想定外だったようだ(厳密には1440の連続ではなく、つなぎで高さを稼いでいるし、グラブもしていなかったことから技の質は平野選手の方が数段上だったという声が実は多い)。しかしながら、ショーンが平野選手の持つ最高難度の技をぶっつけ本番で挑み、成功させた段階で、平野選手は負けを認めたようだ。

 

 このように、採点競技では駆け引きは重要な要素だ。先日のNHK杯の公式練習で、コストルナヤは3A+3Tを跳んでみせたという。実際の演技では実施しないのに、衣の下の鎧をちらっと見せる。プレッシャーだ。紀平さんも4Sを公式練習で跳んで見せる。また、プロトコルの申告表は彼女の完全なコンディションでできる4S Lzを含めた最高難度のプログラムを提示した。これも水面下の戦いだ。競技は、お互いベストなパフォーマンスで競い合いましょう、というお行儀の良いものではないだろう。それも有りだと思う人もいれば、相手のミスを誘導させるような心理戦はいただけないと思う人もいる。僕は、前者の立場だ。そもそも、滑走順自体がフェアなものではなく、N杯のSPで最終滑走に当てられた紀平さんは「あー、どうしていつも最後なんだろう」とため息をついたそうだ。コストルナヤと、ザギトワの演技を見た後で滑ることだけで大きなプレッシャーだ。そして目の前で自分が持っていたSPでの世界最高得点を塗り替えられてしまった。ま、その中でほぼノーミスで演技を締め、最後のループだけ詰まったところに落ち着かせたのは大きな成長だと思う。

 その後のインタビューで、ループをもうちょっとごまかせたら良かったんだけど、という発言があり、一部で不興を買ったようだが、この誤魔化すという表現は、審査員の目を誤魔化すという意味ではないと思っている。ISUの審査員の目は節穴ではない。ループで詰まった後の動きをなにか入れたら、GOEのマイナスをなんとかできたかも、というニュアンスと僕は思った。昨年の全日本で、3連続ジャンプの冒頭でステップアウトした後にEuもどきを入れ、その後に2Sを加えたように。あれはステップアウトしたままだと単なる失敗した3回転だったはずだが、まがりなりにも3連続ジャンプの形に誤魔化した。

 彼女の誤魔化し、とはこういう事で最善のリカバリーの意味と捉えている。