山盛りの薬を飲むようになって5年になる。
朝、お弁当の卵焼きを作るのが日課だったあの日、卵をボールに落とした瞬間、動けなくなり泣きながら上司に電話をした。
もう、無理です。

当時、勤めて10年。
見えない雑務と一番偉い人に見える仕事の両立で、毎晩布団の中で翌日の段取りを考えていた。
胸が苦しい。
頭が痛い。
眠らないと明日の仕事に支障が出る。
身体が冷たくなり、旦那に救急車を呼んで欲しいと頼んだ。
過呼吸だった。
仕事を1週間休んで復帰した。
あの時辞める勇気があればと思う。
無理なんだ。
当時の私には。

一番偉い人に、仕事の量と時間短縮を申し出てみた。
帰ってきた返事は
アナタの空けた仕事の穴は、誰が埋めるのか?
という、穏やかな口調の叱責だった。

変わらないドロリとした毎日が戻って数ヶ月。
卵を割って動けなくなった。

夕方、一番偉い人から電話がかかってきた。
仕事、大変か?
優しい言葉かと思ったら、
そんな仕事で悩んでいるのかと笑いながら諭された。電話の向こうで駅のざわめきが聞こえた。電話は切れた。

その後、過食と薬で5年勤めた。
辞めるキッカケは突然だった。
誰にも相談せず、辞めた。
辞める時でさえ、罵倒され人間性を否定された。
夏だった。

辞めたら、どれだけ清々しいだろう。
考えていたほど何も感じなかった。
この15年、何だったのかな…それだけだった。

辞めれば、スッキリと元気になると思っていた。
単純ではなかった。
ジムに通っていた頃は少しマシになった。
それも、拠り所にしていたインストラクターの急逝で、元に戻ってしまった。

若い俳優さんが自殺をした。
自分は死にたいとは思った事はない。
だけど、だけど、鉛のようにドロリとしたものが押し寄せてくる。

人間は面倒な生き物だ。

唯一の拠り所は、こんなグズグズした自分を許してくれる旦那なのか。
そらすらもよくわからない。