花便り 8 | 蒼のエルフの庭

蒼のエルフの庭

蒼の方への愛を叫んでおります
主に腐小説中心の妄想部屋でございます
ご理解いただける方のみお入りください
(男性の方のご入室はお断りいたします)

部屋に入ってきた若者が

若主人の前に座り

深々と頭を下げた

 

「突然、このような場所に連れてきてしまい

 無作法をお許しください」

 

いきなり袖を引っ張られ

気が付けば見知らぬ場所

正直に言わせてもらえば

少しだけ腹立たしい思いがある

ただ ・・・ 全くまがまがしい気配もなく

寧ろ清浄な気が溢れかえってるような場だ

 

「どうして私が呼ばれたんだい?」

 

こういう場合は、誰かが呼んだのだろう

 

 

「私は新たにこの山を任さました

 椈と申します」

 

「はあ ・・・ 椈殿でございますか ・・・」

 

う~ん ・・・ この方は人ではないな ・・・

どちらかと言うと蒼殿に近い ・・・

 

「母のもとを離れ ・・・

 ここで育ち ・・・

 ようやく山を任される年に達したのですが

 私の不徳の致すところなのか ・・・

 山に春がこないのでございます ・・・」

 

かなり憔悴しきった顔で項垂れる椈

 

「春がこない?

 庭の木瓜は咲いていたぞ」

 

確かに今年の春は遅い気がする ・・・

上毛屋の木瓜の花は咲いていたが ・・・

 

「それは ・・・ 木瓜でございますから 

 寒いうちから花を咲かせます」

 

確かに木瓜は冬にも咲くな(笑)

笑ってる場合じゃねえか・・・

 

「 外を見て頂ければ

 その様子が分かると思います」

 

「ここに来てすぐに気が付いたが

 梅の木に全く蕾が付いていないようだな」

 

「左様でございます

 山の麓に広がる梅の木に

 全く花が付いていないのです

 そのため ・・・ 他の春の花たちまでもが

 眠りについたまま ・・・

 そこで ・・・ 貴方様に来ていただいたのです」

 

縋りつくよな眼差しを向けるが

如何せん、私を呼んだところで

花は咲かせられない

 

「ちょいと待っておくれ

 私にそのような力はないぞ」

 

「貴方様から ・・・ 

 春を告げる者の

 気を感じたのですが ・・・

 違うのですか?」

 

ああ ・・・ 花の妖精のさとち殿 ・・・

 

「それは私ではないぞ ・・・」

 

そう伝えると

この世の終わりのような顔をして

がっくりと肩を落とす

 

「また間違ってしまったのか ・・・

 もう、貴方様をお返しする力も

 春を告げる者を連れてくる力も

 ございません ・・・」

 

「どういうことだい?」

 

「本来であれば ・・・

 母に相談できるのですが ・・・

 その母と話が出来なくなってしまいました

 私の持てる力で ・・・

 まだ幼い子らを守っていたのですが ・・・

 貴方様を戻すための力を使えば

 この山は ・・・ 枯れてしまいます ・・・」

 

はらはらと涙を流し

万策尽きたという顔をした

 

翔が気が付いて

さとち殿を呼んでくれれば

何とかここに連れてこれるが 

さて ・・・ どうしたものか ・・・

 

「私は椈殿が望む人に心当たりはある

 ただ ・・・ 直ぐにここ来れるかは

 正直、約束はできない ・・・」

 

「その方を知っているのですね?」

 

「ああ ・・・ たぶんあの方だ ・・・」

 

この場合、蒼殿ではない ・・・

それに蒼殿はここには来れないだろう

(既にこちらにもおいでなのだから)

 

「お連れすることは可能ですか?」

 

「少し時間はかかるが

 必ずここに来る ・・・」

 

あれだけお優しいさとち殿だ

翔の助け呼ぶ声を

無下にすることはない

 

それに彼奴は私の為なら

地の果てでも探しに来てくれる

それだけは間違いがない

 

「私の目は間違っていなかった ・・・」

 

少しだけ安堵したのか

涙をこぼしながら

袖口で顔を拭う

 

「あの方が来るまでの間

 私がその襖の梅に花を咲かせます

 少しでも春を呼ぶ助けになるやもしれない」

 

「貴方様のお噂は聞いております

 まるで本物の花が咲いたような絵をお描きになると

 少しでも小さきものの慰めになると思い

 お願いするつもりでございました

 どうか ・・・ お頼み申します ・・・」

 

「絵具はおありか?」

 

「直ぐに支度をさせます ・・・

 何もないところでございますが

 何でもお申し付けください ・・・」

 

椈殿の顔を見ていると

何とか力になってやりたいと思う

かなり憔悴している

少し休ませた方が良いのかも知れぬな ・・・

 

「椈殿、絵具の支度が出来たら

 少し休んだらどうだ?

 今のままでいると倒れてしまうぞ

 そうなっては元も子もない

 夕餉の準備も私がする故

 日が暮れたら呼びに来ておくれ

 私は絵を描き始めると

 寝食を忘れてしまうからな ・・・」

 

 

「ありがたきお言葉 ・・・

 痛み入ります ・・・ 」

 

余程、ギリギリなのだろう ・・・

 

「そうだ ・・・ 少し外に出てもいいか?」

 

「ええ ・・・ どうぞ庭に出てください ・・・」

 

彼の中に俺が逃げるという概念はないのだろうな

それに ・・・ 多分出られないはず ・・・

 

何がきっかけなのかは分からないが

結界のようなものが張られてしまったのだな ・・・

 

 

一番太い梅の木に幹に触り

 

「翔 ・・・ 心配するんじゃないよ

 私は大丈夫だ

 さとち殿を連れてきておくれ

 そうすれば ・・・

 ちゃんと帰れるから

 それまで、和を頼んだよ」

 

声に出して呟いた ・・・

翔に届けばいいのだが

 

若主人は空を見上げて

大きく深呼吸をした

 

大丈夫 ・・・

大ちゃんが付いてる

この山もすぐに春が来る

 

心の中で呟いた

 

 

 

 

 

 

 

<続きます>