花のお江戸の珍道中 36 | 蒼のエルフの庭

蒼のエルフの庭

蒼の方への愛を叫んでおります
主に腐小説中心の妄想部屋でございます
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(男性の方のご入室はお断りいたします)

数百年後の江戸 ・・・

何処にも自分たちの暮らした町はない

上毛屋の大きな家も

若智屋の小さな店も

それがなんだか淋しくなってしまった

 

「どうちたの わかちゃん」

 

「いやな ・・・ 何にも残っちゃいないんだなと思ったら

 ちょっと寂しくなっちまった」

 

しみじみ呟く若主人に同意するように頷く翔旦那

 

「でもな、ここまで綺麗さっぱりなくなってると

 案外すっきりするものだぞ」

 

さっきとは逆で、若主人の背中に触れて

にっこり笑う

 

「智、儂らが向こうに帰った世界が

 この町になってたら驚くが

 儂らが暮らす江戸はそのままじゃ

 何も淋しがる必要はないと思うぞ」

 

「それもそうなだな(笑)」

 

3人がニヤリと笑うのを見て

さとちがきょとんとした顔をする

 

「ほえ~ ・・・ おきなのいおりはのこっちぇるよ

 ごじゅうのとうも ・・・ おちぇらも ・・・」

 

綺麗さっぱりなくなっていないと言いたいらしい

 

「儂の庵が残ってるのか?」

 

「ああ、寺になってるよ ・・・

 当時の根本中堂はないが

 寛永寺境内には江戸の建物が

 結構残ってる」

 

蒼さんにあっさり言われて

目を丸くする

 

「おえどのたてものは

 いろんなところにのこっちぇるんだっちぇ」

 

「全部が全部、綺麗さっぱり消えたわけじゃない

 ・・・ 歴史はめまぐるしく変化して

 街は姿を変えていく ・・・

 それは今もだ ・・・ 50年後 ・・・

 ここは全く違う街に変わっているのかもしれない

 だけど ・・・ 残るものもある

 若ちゃんの絵も残ってるし

 名前は変わったが上毛屋も残ってる」

 

「絵が残ってるのか 

 それはそれで恥ずかしい ・・・」

 

若主人が苦笑いを浮かべる

 

「当たり前だ、お前さんの絵がなくなるわけなかろう

 どの絵も生きてるからな(笑)」

 

若主人の絵が残っているのは

大野から聞いていた翔旦那

それだけで鼻が高くなる気持ちだ

ただ ・・・ 一つだけ気がかりなことがある

上毛屋が残っているのは知っていた

若智屋は ・・・ どうなっているのか?

若主人もそのことが気になっているんじゃないかと

気がかりでしょうがない

智のいる前では聞けない ・・・

笑みを向けながら内心不安な気持ちになった

 

「上ちゃん、心配しなくていいよ

 若智屋も名を変えて残ってる」

 

「蒼殿 ・・・ それは本当ですか?」

 

「あおちゃんがいうなら

 ほんとうだよ」

 

さとちが太鼓判を押す

 

「智 ・・・ 良かったな ・・・」

 

和也の行く末が気になっていたはず

若智屋が今に繋がっているのなら

これほど嬉しいことは無い

誰よりも嬉しい表情を浮かべる

 

「まあ ・・・ そうだな ・・・」

 

屋号を変えたのが和ならいいのだが 

若智屋に縛られず

好きなことをして欲しい

それだけが若主人の願い

 

「チビ、もうすぐ着くぞ」

 

車の窓にピタッと手をくっつけたさとち

目を真ん丸にして

天高く聳え立つビルを見上げる

 

「ほえ~ ・・・ たかい ・・・

 おそらについちゃう?」

 

「ふふ ・・・ ついちぇないだろ」

 

「おいら ・・・ あんなたかいところまでとべない」

 

「そりゃそうだろ ・・・

 飛べたら怖いぞ」

 

呆れた顔で呟く蒼ちゃん

 

「本当に ・・・ 聳え立つって言葉がピッタリだな」

 

若主人も同じようにビルを見上げる

 

「あの建物の上まで行くんですか?」

この時点で怖い翔旦那

身震いをして難しい顔をした

 

「今日行くところはそのビルの隣なんだ

 独立した建物だから

 あのビルのてっぺんまではいかない

 何なら映画の後展望台に行くこともできるけど」

 

「緋~ちゃん、行けるの?」

 

蒼さんがクスクスう笑う

 

「おいら いっちぇみちゃ~い

 ふじしゃんみちゃいもん」

 

「緋殿 ・・・ いらぬことを ・・・」

 

足が竦んで歩けなくなるのは目に見えてる

緋~さんは大丈夫なのか?

恨めしげな顔をして

鏡を睨みつける

 

「翔 ・・・ そう怖くないと思うぞ

 遠くを見てれば地上と同じだ

 ここでしか出来ないことだ

 手を繋いでてやるから

 一緒に登ろうな(笑)」

 

若主人は笑うけど

そう簡単に頷けない

黙り込んだまま俯いて頭を左右に振った

 

「緋~ちゃん、言ったからには

 一緒に行くんだよ」

 

蒼ちゃんに言われて首をすくめる

 

どうやら二人とも高いところは苦手

 

「ほえ~ しゅべりだいみちゃい」

 

車が地下の駐車場向かって降りていく

全く空も見えない場所

 

どこに行くのかと

翔旦那、若主人の手を握り締めた

 

 

 

 

 

 

<続きます>

 

 

ようやく映画館に到着です

エレベーターにエスカレーター

翔旦那は大丈夫でしょうかねぇ(笑)