光が射す場所 383 | 蒼のエルフの庭

蒼のエルフの庭

蒼の方への愛を叫んでおります
主に腐小説中心の妄想部屋でございます
ご理解いただける方のみお入りください
(男性の方のご入室はお断りいたします)

新しい年が明け

二人で日の出を拝み

若旦那は上毛屋に戻って行った

 

若智屋の元旦はいつもよりゆっくり始まる

年初めの挨拶をし

全員でお雑煮を頂き

奉公人に新しい着物とお年玉を渡す

この一連の流れは若主人が店を継いでから

ずっと続いている

若智屋の奉公人は江戸一の果報者と言われる所以だ

(そんな店は江戸中を探してもないからだ)

 

「皆、喜んでいたかい?」

 

上毛屋に行く道すがら

和也に訊ねる若主人

 

「ええ、それは凄く喜んでいました」

 

「和也 ・・・ 店の為に働いてくれてる子達だ

 お前さんが店を継いでも ・・・

 これだけは続けておくれでないか」

 

家は大店ではない

身を粉にして働いてくれる者たちに

それくらいしても罰は当たらない

 

「兄さん、私はまだ店を継ぐつもりはないですよ

 福松が一人前になるまでは

 主のままでいてください」

 

「いずれの話だよ

 分かりましたと言えばいいだろう」

 

奉公人からも慕われる主に成って欲しい

それが若主人の望み

事あるごとに伝えていくつもりだ

 

「それは分かってます」

 

「ならいいよ」

 

上毛屋の玄関で来訪を告げると

大番頭が出て来た

年始の挨拶だと伝えると

奥の客間に二人案内される

暫くすると上毛屋の主とご内儀

それと若旦那が中に入ってきた

 

主とご内儀が前に座り、若旦那が脇に控えた

 

「あけましておめでとう存じます

 昨年は大変お世話になりました

 本年もよろしくご指導ご鞭撻をお願い申し上げます」

 

若主人が仰々しく挨拶を述べ

和也と一緒に頭を下げた

 

「あけましておめでとう

 わざわざ年始の挨拶に来てくれて

 済まなかったね

 二人には息子がお世話になりました

 これからもよろしく頼むよ」

 

主が二人に向かって挨拶を返す

ご内儀が笑みを浮かべて

 

「そんな堅苦しくしなくても

 二人とも身内ですよ

 智さん、和也さん、あけましておめでとう

 今年もよろしくおねがいしますね」

 

「はい ・・・ よろしくお願いいたします」

和也が返事をする

 

「本日二人で参りましたのは

 若旦那へのお祝をお納めいただきたく

 持参いたしました」

 

若主人が脇に置いた風呂敷包みを

上毛屋の前に差し出す

 

「私へのお祝?」

 

そんな用意をしているとは

露ほども思わなかった若旦那

驚きを隠せない表情で声を上げる

 

「翔、智さんの話はまだ終わっていないよ

 最後まで聞くのが主の務めだよ」

 

主に諫められて口を閉ざしたが

若主人が何を持ってきたのか気になって仕方がない

 

「年が明け、上毛屋の主は若旦那に

 主はそれを監督する大旦那様になられます

 手前どもでは大したお祝は出来ませんが

 心ばかりの品をお持ちしました

 どうぞ、お受け取り下さい」

 

若主人、最初に菓子の方の風呂敷包みを開く

 

「これは何だい?」

 

「明日の初売りの際の振る舞い菓子でございます

 店に来て頂いた方、通りを歩く方

 大人にも子どもにも配って頂きたいと存じまして

 沢山拵えました」

 

「どんな菓子なんだい?」

 

「梅の花を模した有平糖でございます

 小さい菓子でございます

 どうぞ手に取ってください」

 

ご内儀が菓子の包みを手に取って

包みを開ける

 

「あらまあ ・・・ 可愛らしい菓子だ事 ・・・

 それに、この千代紙も ・・・ 綺麗な色 ・・・

 これは ・・・ 空の色と ・・・」

 

その包みを主に渡す

若旦那も首を伸ばして中身を確認する

 

「お日様の色です ・・・ 少し柔らかい色にいたしました」

 

「これはまた ・・・ 細工が ・・・

 智さんが拵えたのかい?」

 

あまりの細工の細かさに唸り声をあげる

 

「はい、私が拵えました

 素人の拵える物です

 人様に見せられる物では有りませんが

 開いた時に笑みが浮かぶ梅にいたしました」

 

「こんな見事な菓子を ・・・

 智さん、明日の振る舞いがしに使わせて貰うよ

 ありがとう」

 

主が満面の笑みを浮かべて頭を下げた

ご内儀と若旦那もそれに続いて頭を下げた

 

主になるのを祝ってくれる若主人の想いが

何よりも嬉しいと思う若旦那

 

「そう言って頂けると拵えた甲斐があります ・・・

 もう一つ ・・・ こちらは若旦那に ・・・」

 

「私に」

 

最後まで口を挟むなと諫められた若旦那

今まで黙っていたが若旦那へのと言われれば

話しは違う智の傍に

座ったまま擦り寄って行く

 

「明日を迎える翔への

 私からのお祝の軸だ ・・・

 絵を描くことしか能がないからな

 変わり映えはしないが ・・・」

 

照れくさそうな笑みを浮かべる若主人と

全てが呆気に取られている若旦那

ポカンとした顔で若主人を見つめる

 

「翔 ・・・ ポカンとしてないで

 軸を開いて見せて頂きなさい」

 

ご内儀が若旦那の膝を叩いて

早くするように促す

菓子を拵えて ・・・ 絵まで拵えて

一体、此奴は何時寝ていた?

ああ ・・・ だから ・・・ 寝込んで ・・・

やっと得心が言った若旦那

そこまでして私を ・・・

その気持ちだけで涙が零れそうになる

 

軸を手に取り開いて行くと

 

暁の空に昇る深紅の旭日

それに劣らず真赤なとさかの雄鶏が

口を大きく広げて時を告げる

その姿は堂々として誇らしげだ 

 

「こんな目出度い軸を頂けるとは ・・・

 翔、貴方ほど果報者は居ませんよ」

 

ご内儀が嬉し涙を拭いながら

若旦那の背中を叩く

 

「兄の渾身の一作でございます ・・・

 若旦那に気が付かれないよう

 客間に籠り描いておりました

 鶏は時を告げる神の使いと言われております

 新しい年を告げる雄鶏

 上毛屋さんが今以上に繁盛するようにと

 想いを込めたものです」

 

和也が兄の気持ちを代弁するように説明する

 

「この子は全く気が付かなかったようだね

 まあ、それが分かるようなら

 もう少し世渡りが上手だろうがな」

 

隠すことに関して

若主人に敵う者はいないと思う

 

「まだまだって事ですよ」

 

ご内儀が涙を拭きながら可笑しそうに笑う

 

「智 ・・・ 私の為に ・・・

 こんな嬉しい祝いはないよ ・・・

 ありがとう 」

 

そう言いながら袖口で涙を拭うう

 

「明日の朝、こちらの軸に替えさせて貰うよ

 翔の晴れの日だ」

 

「ええ、そうしてください」

 

無事に渡し終えた若主人

肩の荷が下りたのかホッとした表情を浮かべた

 

「それでは、お暇しようかねえ」

 

「そう急いで帰らずとも

 ゆっくりして行きなさい」

 

主が慌てて止めるが

若主人が頭を左右に振る

 

「そうは言いましても正月

 来客も多いでしょう

 長居してはご迷惑です」

 

こういう時の若主人は頑な

和也に目配せをして

頭を下げて、二人一緒に立ち上がる

若旦那も一緒に立ち上がる

 

「翔、お前さんは忙しいだろ?」

 

「忙しくても、送って行くよ」

 

「智さん、それくらいさせてやっておくれ」

 

「そうですか?

 じゃあ、表まで送っておくれ」

 

若旦那話したいことが沢山あるから

このまま若智屋について行きたい

それくらいは許されると思い

取りあえず外までと言う顔でついて行くことにした

 

 

 

 

 

 

 

<続きます>