光が射す場所 164 | 蒼のエルフの庭

蒼のエルフの庭

蒼の方への愛を叫んでおります
主に腐小説中心の妄想部屋でございます
ご理解いただける方のみお入りください
(男性の方のご入室はお断りいたします)

朝の月を二人で見送り、朝陽を迎える

若旦那にとっては至福の時 ・・・

隣に愛しい智が瞳を輝かせて空を見あげている

若旦那には月もお日様も二の次

ずっと見ていたいのは

愛しい智の横顔

 

若主人が熱い眼差しに気が付いて

視線を若旦那に戻すから

慌てて、東に昇り始めたお日様を

眩しそうに眺めた

 

「昨日の月の方が大きくて綺麗だった

 一昨日辺りが満月なんじゃねえのか?」

 

同じ刻限なのに昨日の場所にはいないお月様を指さして

若旦那に確認をする

 

「夕べじゃなかったのかねえ ・・・

 それでも、夜の月は丸かっただろ?」

 

「確かに ・・・ でも真ん丸ではなかったかもな 」

 

「でもな、綺麗な月とお日様が昇るのも一緒に見れた

 私には十分だよ」

 

本当にそう思う若旦那

二人で暮らすようになったら

月の満ち欠けを一緒に拝める

その日まで、一番綺麗なお月さまは取っておこうと思う

 

「あの大きな月を見せてやりたかったんだが ・・・

 すまなかったな ・・・」

 

残念そうな顔で呟いて目を伏せた

 

「珍しく大袈裟だなぁ(笑)

 満月は月にいっぺんはやって来るじゃねえか

 その時見ればいいだろう」

 

多分、次の満月の時は見れないと思う若主人

月の見え方も1年中同じじゃねえ ・・・

来年の今頃は ・・・ 

お前さんが別のお人と一緒に見てるかも知れねえな ・・・

 

「まだ朝餉の時間には早いから

 もそっとだけ布団に潜り込もうかねえ」

 

「そうだな ・・・ 早く起きだして

 店のお勝手場の人を急かしても申し訳ない」

 

「ああ、家の使用人は早起きだけどな(笑)」

 

先に縁側に向かう若主人を追いかけて

小走りで追いかけようとした若旦那

小石に足を滑らせて ・・・

 

「ああ~ ・・・ さとし ・・・」

 

そう声を掛けて、そのまますってんコロリン

驚いて振り向いた若主人が

若旦那の腕を掴んだが、そのまま尻もちをついてしまった

 

「お前さんはおっちょこちょいだねぇ

 もしかして寝ぼけていたのかい?」

 

声を掛けても返事がない

 

「ありゃ ・・・ 朝も早よから跳んだか?」

 

ピクリとも動かない若旦那を抱きかかえて

地べたに腰を下ろした

 

「大野殿がお呼びになったんだな

 お前さんの事が心配で ・・・」

 

あのお方 ・・・ 多分何も言わないだろう

そこは私に似ているような気がする

 

「向うに居る時間の長さは分からないが

 今回は早く呼び戻させて貰うよ(笑)」

 

若旦那の頬に手を当てて

 

「本当に綺麗な顔をしてるな ・・・

 お前さんなら ・・・ どんなお人とでも

 上手くやって行けるよ」

 

そっと呟いた若主人

 

 

 

~*~*~*~*~*~

 

櫻井が相山寺について調べたら

秋の軸は常時展示されていない事が分かった

早々に寺に電話をして訊ねると

特別に見せて貰える事にはなったが

予定がびっしり詰まった(オンとオフも)櫻井の

日程調整が上手くいかない

翔君は ・・・ 忙しいから ・・・ 仕方がない

無理なら一人で見に行っても良いと思い始めてた

 

そのお寺に行ったからと言って

どうなる事でもないのは分かってる

それでも ・・・ どうにかしてあげたいと思う

何も言えないのは分かってる

上ちゃんが若ちゃんを説き伏せなきゃ意味がない

頑固な若ちゃんを納得させる言葉を言わなきゃ

あの人は心を凍らせてでも実行に移す

 

 

今日は古い洋館でのMV撮影

今回は個人のシーンがある為、撮影場所は別々になる

 

休憩時間、少し庭を散策する

撮影は休館日に行う為人はいない

庭のバラは咲き誇り上品な香りが漂っている

 

「バラと言ってもこんなに沢山の種類が有るんだ」

 

色も形も違うバラの花を見て

驚きの声を上げる大野

 

「ああ~ ・・・ さとし ・・・」

 

ん?どこかで聴いた声がする

翔君? ・・・ な訳ないよなあ

 

声のする方に近づいていくと

地べたに座り込んでいる上ちゃんが見えた

 

「あ ・・・ 上ちゃん ・・・」

ずっと呼び続けていた上ちゃんが目の前に居る

 

 

「あれれ ・・・ わたしゃまた跳ばされたのかい?

 ここはどこなんだ?

 智 ・・・ 智 ・・・ どこにいるんだい?」

 

呼んだところでそばに居ない事は分かっているが

呼ばずにいられないのが人というもの

若旦那、泪が零れてきた

 

自分が跳ばされるのも、智が跳ばされるのも

どっちも好きにはなれない

それでも意味があるという智

 

今回はなんの為に呼ばれたのか

泪を飲み込みながら考える

 

智が困っている事 ・・・ 飾り羽の模様 ・・・

それが頭に浮かんだ ・・・

 

「上ちゃん!上ちゃん!」

 

後ろから名前を呼ばれてホッとする若旦那

この声は大野殿だ

 

袖口で泪を拭って振り返る

 

「大野殿 ・・・ 息災でしたか」

 

笑みを浮かべて立ち上がる

 

「息災? ・・・ 息災 ・・・ どっかで聞いたぞ ・・・

 ああ、元気かって事だ ・・・

 ふふ ・・・ ずっと上ちゃんに逢いたかったんだ

 うん、俺は息災だったよ」

 

若旦那の笑顔の中に憂いがない

まだ気が付いていない事が窺える

 

「それは、ようございました」

 

「上ちゃんは?」

大野は態と満面の笑みで訊ねる

 

「見ての通り、ピンピンしています

 それにしてもお久し振りでございます」

 

「本当だよ ・・・ 秋の軸を描き始める前に

 こっちの飛んでくると思って待っていたのに

 なしの礫で ・・・ ちょっと淋しかった(笑)」

 

「それはそれは失礼いたしました

 私の代わりに智が飛ばされましたので」

 

「秋の軸のおおるりは上ちゃんのリクエストなんだろ?」

 

「リクエスト? ・・・ それはなんでしょうか?」

 

大野殿は時々分からない言葉を使う

首をかしげていると

 

「ああ、おおるりを描いて欲しいと願ったのが上ちゃんだろ?」

 

「ええ、そうです

 そうか ・・・ 智から聞いたのですね

 おおるりがあまりにも綺麗に鳴くので

 あの絵の中で泣いて欲しいと思いまして

 智の描いた絵、見て頂けましたか?」

 

「まだ実物を見ていないんだ ・・・

 近いうちに観に行こうとは思ってる」

 

「是非観に行ってやってください

 絶対に唸ると思いますよ

 大野殿は絵を描かれないのですか?」

 

「へ? ・・・ どうしてそれを?」

 

「櫻井殿の部屋には大野殿が描かれた絵が飾ってあったと

 智が言っておりましたので」

 

「最近は ・・・ 描いていないんだ ・・・

 どうしても描きたいという気にならなくて」

 

櫻井の喜ぶ顔を見たくて絵を描いていた大野

少しずつ距離を置いていくには

共通の話題を減らすことに有った ・・・

 

「どうしてですか?

 智が大野殿の絵は素晴らしいと話しておりました

 描きたい物を見つけたら

 なりふり構わず描いたらいいんですよ」

 

智が櫻井殿が呼んだと言っていた

今回は大野殿が私を呼んだのだろうか?

大野殿の澄んだ瞳が笑っていないのが気に掛かる

 

「そうなれたらいいな ・・・

 ところで ・・・ 若ちゃんは息災なの?

 何か変わった事はない?」

 

上ちゃんの表情を窺いながら訊ねる大野

ここで悟られないようにしないと 

向こうに戻って騒いだら大変

 

「智も息災でございます

 今は正月の初釜の軸の準備をしております

 今回は二人で拵えると言ってくれたので

 私も無い知恵を絞っております」

 

最後の軸を二人で拵える ・・・

その言葉がズキッと胸に突き刺さる

若ちゃん、考えを変えていない ・・・

 

「二人で拵える軸なの?」

 

「ええ、何が出来るのかは

 楽しみにしておくんなさい

 ああっ!」

 

若ちゃんが大きな声を出してバラの花に近づいていく

 

 

「この花は何という花でしょうか?

 変わった花びらでございますねえ」

これは飾り羽の模様にならないだろうか?

 

  

こっちの花も ・・・ 花弁が変わった形だ ・・・

 

 

訊ねられた大野が上ちゃんの隣に立って花を眺める

 

「ここに咲いている花は全部バラだと思うけど ・・・」

 

「ばらでございますか?」

 

江戸時代はバラと呼ばないのか

携帯を取り出して江戸時代の薔薇の呼び名を検索する

 

「江戸時代は薔薇(そうび)というらしい」

 

「そうびでございますか?

 秋に咲く薔薇(そうび)は有りますが 

 この花弁は初めてでございます」

 

「ハートの形みたいだよね」

 

「はーと?ですか?」

 

「ハートってのは好きって意味があるんだ

 この花びらの形が気になるの?」

 

この模様にそんな意味が?

それなら、ぜひ使って貰いたい

彼奴には直接伝えないが

それが私の想いになる

 

「ええ ・・・ この花弁が

 正月の絵の参考になるといいなと思いまして」

 

やはり、私が跳ばされたのは

この花に出逢う為 ・・・ 

 

「大野殿、お願いがございます

 私の腕にこの花弁の形を描いてもらえませんか?

 色は私がしかと覚えておきますゆえ」

 

袖を捲り上げて腕を差し出した

 

たまたま小物として

レトロなペンを持っていた事に気が付いた大野

腕の内側にハートの形を描いた

 

 

智、用事は済んだよ ・・・

早く呼び戻しておくれ

そう心の中で呟いた

 

 

「こんなので良いの?」

 

「ええ ・・・ 彼奴がこれを

 どう参考にするかは分かりませんが

 私の仕事は終わったようです ・・・」

 

それにしても呼んでくれない

はっ! ・・・ もしかしたら戻れないのか?

 

そう思い始めたら急に不安になってきた若旦那

また泪が込み上げてきた

 

「どうしたの?」

 

「智の声が聞こえねぇんです ・・・

 このまま ・・・ 戻れなかったら ・・・」

 

何度も跳ばされているから

慣れたのかと思っていた大野

大粒の泪を流し始めた上ちゃんを見て

やっぱりいつもの泣き虫な上ちゃんだと

何故だかホッとした

 

「大丈夫だよ、絶対呼んでくれるから

 用事が済まないと

 上ちゃんには聴こえないんだよ」

 

泣いている上ちゃんの背中を宥めるように擦る

 

「私の ・・・ 用事ですか?

 もう ・・・ 済んだと思いますが」

 

そう言って、鼻をするって声を上げる

 

「上ちゃん、よく聞いて」

 

泪を流しながら大きく頷く

 

「絶対に大事な人の手は離さないで」

 

「ええ ・・・ 絶対離しませんよ ・・・」

 

私に取っちゃ命より大切な智ですから

 

「絶対に諦めないで」

 

何を諦めちゃいけないんです?

訊き返そうとしたら

 

遠くから智の声が聴こえてきた

 

「大野殿 ・・・ 智の声が ・・・」

 

『翔 ・・・ 翔 ・・・・

 早く帰ってきておくれ ・・・』

 

「若ちゃんが呼んでるの?」

 

黙ったまま大きく頷く

 

『早く帰って来ないと 

 お前さんの事、大嫌いになるよ!』

 

「智に嫌われたら ・・・ 生きて行けないよ」

 

大粒の泪を流しながら

空を見上げた瞬間

上ちゃんの姿が光りに包まれた

 

眩しくて目を閉じて ・・・ 

光がおさまった時目を開けたら

上ちゃんの姿は何処にもなかった ・・・

 

 

絵を拵えるために跳んできた

俺の呼ぶ声にも答えてくれたのかな?

 

 

上ちゃん、絶対に諦めたらダメだよ

若ちゃんは側を離れる覚悟をした

それは間違えないんだ ・・・

教えてあげたくても出来なかった

もし話したら、上ちゃんは若ちゃんを縛り付ける

それじゃあ、どちらも不幸になる

 

どうか ・・・ 二人の道が同じであるように

それだけを祈るしかない ・・・

 

俺が絵を描いたら ・・・

その想いが若ちゃんに伝われば

思い直してくれる?

 

 

どんな絵を描けばいい?

上ちゃんと若ちゃんの絵を描こう

若ちゃんを知っているのは翔君

 

俺達も一緒に絵を拵えれば ・・・

 

 

それを伝えたくて携帯を取り出した

 

 

 

 

 

<続きます>

 

 

 

 

 

 

 

 

若冲さんが描いた鳳凰の絵は3枚

(私が確認した物だけですが)

一枚は白い鳳凰を描いています

その鳳凰の飾り羽の模様が

ハートに見えるのですが

どうやって♡模様にするか

頭を悩ませました

ハートと伝えても分からないので

花びらにして伝える事にしました

初釜用の鳳凰は少しアレンジさせて頂きます

(本来は番の絵ですが雄だけにさせていただきました)

 

こちらの話もスピードアップしたいのですが

中々進みません

切ない話が続きますが

呆れずにお付き合いください

 

 

蒼のエルフ(yayosato)