光が射す場所 161 | 蒼のエルフの庭

蒼のエルフの庭

蒼の方への愛を叫んでおります
主に腐小説中心の妄想部屋でございます
ご理解いただける方のみお入りください
(男性の方のご入室はお断りいたします)

上ちゃんが白孔雀の絵を見ていないのは何故? 

上毛屋さんは貰った絵を見せなかったの?

若ちゃんがそう望んだから?

 

だったら飾り羽の中心を蒼にして

一番外側を薄紅で囲む必要はない ・・・

違う ・・・ 若ちゃんの想いだ ・・・ 

淋しくならないようにじゃない

上ちゃんから見えなくても

ずっと側にいるっていう証

 

 

インターホンが鳴る

モニターに映る櫻井の顔もまた険しい表情をしていた

 

「智君、俺だけど」

「翔君 ・・・」

そのままロックを解除すると姿が消えた

 

玄関まで言って待っていると

前回と同じようにノートパソコンを持って現れた

 

 

「秋の軸は見た?」

 

そう言いながら中に入って来る

 

最近、櫻井が家にくることに違和感を感じなくなってきた

その事で仕事仲間として側にいると決めた覚悟が

グラグラと揺らぎ始めている

江戸の二人の事を想うと

一人では何もできないのも事実

この状況が続けば堪えていた想いが堰を切る 

それだけは ・・・ 堪えきらないと ・・・

櫻井の顔からそっと視線を外して

後ろから部屋に入っていく

 

 

「まだ見てない ・・・

 どうして知らないか考えてた ・・・

 多分、俺が間違った ・・・

 あの飾り羽の色は淋しくないようにじゃない」

 

「うん ・・・ 俺もそう思った

 本来、白である飾り羽に色を付けた

 白孔雀には白く見えるんだ

 だけど ・・・ そこに若ちゃんがいる ・・・

 離れていても上ちゃんの側にいるって意味じゃない?」

 

「構図から見て、あの孔雀には飾り羽は見えない ・・・

 そうだ ・・・ 上ちゃんからは見えないんだ ・・・

 どうして知らない? ・・・」

 

「描いてる所は見てるはずなんだ ・・・

 別の場所で描けるはずもないだろ?」

 

「上ちゃんが納得する理由を付けて描いてた

 それしか考えられないよね ・・・

 翔君、秋の軸は何処に有ったの?」

 

春、夏、秋の順で出来上がっている、次は冬 ・・・

茶会用の連作で描いているとしたら

同じ人が所有していたはずなんだ

 

 

「ちょっと待って、調べてみる ・・・

 ただ、如何せん情報が少ないんだ

 俺達と出逢ってしまったから

 二人の歴史も流動的なんだ

 若智の絵も数えるほど

 智翔に関してはこの3幅 ・・・」

 

この先、二人が離れずに想いを遂げたら

若ちゃんなら ・・・ 智翔の名前を使うはず ・・・

若智の絵が増えていったとしたら ・・・

それは、二人の道が重ならなかったって事

 

「秋の軸 ・・・ 綺麗な紅葉だった ・・・

 風で葉っぱが揺れてるようにさえ見える ・・・

 どうしてあんな風に描けるんだろう ・・・

 おおるり ・・・ 上のおおるりが上ちゃん ・・・

 下が若ちゃん ・・・ 『先に行ってちゃんと追いかけるから』

 って言ってるみたいだった ・・・ 追いかける気がないのに ・・・」

 

櫻井の返事が欲しいんじゃない

ただ感じた事を胸から吐き出したかった

切なくて ・・・ 悲しすぎたから ・・・

 

「智君、あの絵の『おおるり』は

 一緒に並んで飛び立つんだよ

 俺達がそうしなきゃいけないんだ ・・・」

 

若ちゃんが俺に託した想いは

俺達だけは幸せになって欲しいって意味

それは違うよ ・・・

4人で絵を描いたと言ってくれるのなら

若ちゃんたちが先ず幸せにならなきゃ

その為なら俺達はどんな事でもする

(ただ、その術が見つからない)

 

「うん ・・・ 上ちゃんに伝えないと ・・・

 手を離したら駄目だって ・・・」

 

「俺も会えたら伝える

 諦めるなって」

 

「珈琲でいい? 

 インスタントだけど」

 

櫻井はPCから目を離さないまま返事をする

 

「構わないよ」

 

部屋の中はキーボードをたたく音と

ポットの湯が沸く音だけが響く

 

マグカップにコーヒーを入れて側までもって行く

真面目な顔の櫻井が視線を大野に向けた

 

「若ちゃんの支援者らしい人が二人いる

 一人は相山寺の住職 ・・・ この人、かなりの高僧だ

 もう一人は茶賣翁って呼ばれる

 功名な茶人で禅僧だったけど還俗してる

 かなり変わった方だよ、逸話がたくさん残ってる

 この二人はかなり仲が良かったらしい

 智翔の軸は天井画が有った寺が所蔵している」

 

 

「そこの住職が支援者一人だね

 う~ん ・・・ 翔君、還俗ってなに?」

 

「僧侶を辞めて俗人に戻ったって事らしい」

 

「そんな事できたの?」

 

「うん ・・・ 出来たみたいだね」

 

「茶賣翁ってどういう意味?」

 

「川原などでお茶を販売していたから

 そう呼ばれるようになった

 その時のお茶は煎茶みたいだよ

 殆ど代金は取らなかったらしい

 茶を飲みに来る相手との問答を

 楽しんでいたと書いてある」

 

「じゃあ、茶会は煎茶だったの?」

 

「それは違うかな?

 王道である茶道を極めてからだと思う

 それでなければ功名な茶人にはならないでしょ?

 弟子も沢山いたらしい」

 

「その二人が若ちゃんの支援者

 つまりは江戸を離れてからの事だよね?」

 

支援者って事は店を出てからの話のはず ・・・

 

「そこがまだ載っていないんだ

 多分、その寺に伝わる軸の伝承から

 若ちゃんの支援者に挙げられているだけだと思う

 まだ ・・・ 若ちゃんの記述が殆ど無いんだ ・・・

 それは二人の未来が決まっていないからじゃない?」

 

「うん ・・・ あの二人も俺達と今を生きてる

 タイムワープの道が空いている間は

 確定しない ・・・

 翔君、相山寺って天井画が有ったお寺だよね

 そこに行ってみない?」

 

大野からの提案に驚きながらも

即座に賛成する櫻井

 

「ああ、一緒に行こう!

 もしかしたら跳べるかもしれないね」

 

「うん ・・・ 少しでも若ちゃんに近づきたい」

 

若ちゃんに逢えるのは翔君

俺は上ちゃんが来てくれることを願う

 

 

 

 

<続きます>