古今東西の妖精や精霊・スピリチュアルにまつわる作品を取り上げていくコーナーです。

 

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「ムーミンパパ海へ行く」

講談社 青い鳥文庫

トーベ・ヤンソン/作・絵

小野寺百合子/訳

 

 

あらすじ

 

ムーミンパパは退屈していました。

新たな冒険を求めて海を渡ることを思いつきます。

一家は船に乗り込み、波にもまれながらも灯台のある島に辿り着きます。

 

島のくらしはムーミン谷と同じようにはいきません。

食べ物も尽きてくるし、各々の気持ちも変化していきます。

ムーミンパパは灯台守になりきり、ムーミンは家を抜け出して秘密基地に住むことにします。

 

明かりの消えた灯台の行く末やいかに・・・?

 

 

 

みどころ

 

今回のムーミン一家の冒険にはモランというキャラクターがひっそりと付いてまわります。

モランはおばけのような存在として描かれています。

触れた地面を凍らせてしまいます。その場所には草花が生えることは二度とないとか…。なんだか冬の象徴のようですね。このモランが物語の転換の鍵になっています。

 

序盤からずっと、かなり長い間、低空飛行のままストーリーが展開していきます。

この話をどうやって収束させるのか想像つかないまま読みました。読んでいる最中は自分も一緒になって迷ったり困ったりして、島の暮らしの一員になった気分でした。

 

詩的な表現が美しく、詩集のような感じでも楽しめます。

ムーミンが夜の浜辺でうみうまに出会う場面が幻想的でとっても綺麗です。思春期の切ない甘酸っぱい気持ちで胸がいっぱいになりました。

 

読後は静かな感動に包み込まれました。

ほんとうの自分だとか、ほんとうの在り方というものを取り戻す作業の地道さが描き出されていると思います。

 

気持ちが暗くなりがちな寒い時期にそっと寄り添ってくれるような物語。真冬の読書におすすめの一冊です。

 

yucca.