事務室のフロントについた。ドアが少し開いていたので、足でけって入った。
コープさんが驚いて立ち上がる。
「あらあら」
彼女は僕の腕の中の青白い少女をみて、息をのんだ。
「生物の授業でめまいを起こして」
彼女があらぬことを想像する前に、説明した。
コープさんは保健室のドアを急いで開けた。ベラがまた目を開け、彼女をみている。年配の保健婦の驚いた意識を聞きながら、簡易ベットに注意深く少女を横たわらせた。ベラが僕の腕から離れるやいなや、部屋の空間が許す限り距離をおいた。身体が興奮しすぎて、熱望しすぎて、筋肉は緊張し、毒があふれてくる。ベラはとても温かく、そしていい香りだった。
「軽いめまいだと思います」
ハモンド先生に説明した。
「生物の授業で血液検査をしたんです」
先生は思慮深く頷いた。
「いつも一人はいるのよ」
僕は笑いを押し殺した。ベラはその一人になったわけか。
「ちょっと横になりなさい」
ハモンド先生は言った。
「じきによくなりますよ」
「わかってます」
「あなた、よくこうなるの?」
保険婦が尋ねた。
「ときどき」ベラは認めた。
僕は咳き込んで、笑いをごまかそうとした。
これは保健婦の注意をひいたようだ。
「あなたはもう、授業に戻っていいわよ」
僕はまっすぐに彼女を見るめながら、完璧な自信をもって嘘をついた。
「付き添うことになってますから」
―――あら。どうしようかしら…まあ、いいわ。
ハモンド先生は頷いた。
彼女にはよく効いたようだ。どうしてベラはこんなに違うんだろう?
「頭を冷やすものを持ってくるわね」
保健婦はそう言って僕の視線から少し居心地悪そうに―――人間とはそういったものだ―――部屋から出ていった。
「あなたの言うとおりだった」
ベラは目を閉じて、低い声でうめいた。
どういう意味?最悪の事態にびくっとした。彼女は僕の警告をりかいしたのかも。
「大抵はそうさ」
僕は面白がっている声をだそうとした。でも気難しそうな声にしかならなかった。
「でも、今回はどの話?」
「授業をサボるのは、健全だってこと」
ああ、またほっとした。
それから彼女は黙り込んだ。ゆっくりと吸って吐いて呼吸をしている。唇の色がだんだんピンク色に戻ってきている。彼女の唇は平均的ではなく、下の方が上よりちょっと大きめだ。その唇を見つめていると、変な気分になってくる。彼女の傍に近づきたいけど、いい考えじゃないね。
「ちょっとはらはらしたよ」
僕は言った―――もう一度彼女の声を聞きたくて、会話を始めた。
「マイク・ニュートンが君の遺体を引きずっていって、森の中に埋めようとしているのかと思ってさ」
「あはは」
彼女は笑った。
(ベラは目を閉じていたが、こうしていると気分がよくなっていくのを感じた)
「本当だよ―――僕はもっと顔色のいい遺体だって見たことがある」
これは実際にあったことだ。
「君を殺されて報復しなきゃならないかと心配したよ」
僕はそうしただろう。
「かわいそうなマイク」
彼女はため息をついた。
「きっとカンカンになってる」
怒りが込み上げてきたが、すばやく抑えた。彼女が心配するのは、同情しているだけだ。ベラは思いやりのあるこだから。それだけなのさ。
「僕を呪っているのは確実だな」
その考え方に励まされ、彼女に言った。
「そんなこと分からないでしょ」
「あの顔を見れば―――わかるよ」
マイクの表情を読むだけで推測するのに十分な情報を僕にくれた。これも全てベラのおかげで、人間の表情を読むスキルが上がった。
「どうして私のことが見えたの?サボったんだと思ったんだけど」
ベラの透き通った肌から青白さが消えて、顔城が良くなってきた。
「車の中にいて、CDを聴いていたんだ」
僕のあまりに普通の答えに、彼女は驚いて顔を引きつらせた。冷湿布を持ってハモンド先生が戻ってくると、ベラは目を開けた。
「さあ、どうぞ」
保健婦はベラの額に冷湿布をのせながら言った。
「顔色がよくなってきたわね」
「もう大丈夫だと思います」
ベラはそう言って、冷湿布を避けて起き上がる。彼女は世話をやかれるのが嫌なんだ。