かろうじて自分を囲んでいると分かる人々の目を通して、毎日彼女の姿を追っていた。



 でも、マイク・ニュートンの意識はさけた。僕を不快にさせる彼の空想は理解できないからだ。


 そしてジェシカ・スタンリーの意識もさけた。ベラの些細なことまでケチをつけるため、ベラに向ける彼女の心が僕を怒らせるからだ。


 アンジェラ・ウエーバーの意識を利用したときは、彼女はよい選択をした。彼女は親切なこだった―――彼女の意識だと苦もなくみれる。そして時には、ベストな光景を提供してくれる教師の意識も。


 ベラの不器用さを知る人々の意識を覗いたその日、ベラのつまずく姿を知って驚いた―――歩道のひび割れにつまずき、教科書をまき散らす彼女が度々目撃される。



 僕はそれについて深く考えてみた。ただ立っているだけでも、よくトラブルを起こす彼女は事実のようだ。初日に机につまずいてよろめく彼女を思い出した。凍結した路面での危うく死ぬところだったスリップ事故、昨日なんかドア枠につま先をぶつけて教科書を落とした…ひどいもんだ、これらは事実。


 とにかく彼女は不器用なんだ。


 なぜ彼女はこんなに僕を楽しませるのか分からなかったが、国語のアメリカ史の授業を終え教室をでたときに、つい大声で笑い出してしまった。数人の生徒が心配気に僕をちらり見た。以前の僕はどうしてこれに気付けなかったんだろう?彼女の意識の沈黙が、何かとても優雅に感じさせたのかもしれない。



  今では、僕は彼女に優雅さを感じない。バーナー先生の授業では、カーペットにブーツのつま先をひっかけ、文字通りイスの上に腰をストンと落とした。



 僕はまた思い出し笑いをしてしまった。



 僕自身の目で彼女の姿をとらえる機会がくるまでの間、過ぎゆく時間が途方もなく長く感じる。


 ついに、終業のベルが鳴った。


 僕はカフェテリアの安全な場所へと大股で急いで向かった。そこに最初についたのは僕だった。たいてい空席になっているテーブルを探した。このカフェテリアで僕と一緒のテーブルにつこうなんて生徒は一人もいないということも分っている。



 家族がカフェテリアに入ってきて、いつもとは違うテーブルに一人で座っている僕をみつけても、彼らは驚きもしない。アリスは家族に注意すべきだ。



 ロザリーは僕に目もくれないで、気取って歩き通り過ぎる。



 ―――このマヌケ。



 ロザリーと僕は、そう簡単には信頼関係を結べない―――僕の話を聞いた最初の時点で、ロザリーを怒らせてしまい、そこからはもう落ち目だった―――彼女はここ数日間よりも、さらに気難しくなっている。僕はため息をついた。ロザリーは自分が全てと思っている。




 ジャスパーが歩くたびに、僕に軽く微笑んだ。



 ―――幸運を



彼は疑わし気に思っている。



 エメットは眼をきょろきょろさせ、頭を振った。



 ―――理性を失え、哀れな少年よ。



 アリスは喜びに満ち、まぶしすぎるくらい歯を輝かせている。



 ―――もうベラと話をしても?



 「だめだ、許さない」


息を吐きながら言った。



彼女の表情は曇ったが、また輝いた。



 ―――分かったわ。この頑固者。もう時間の問題なんだから。



 僕はまたため息をついた。



 ―――今日の生物学の授業のことを忘れないでよ



 彼女はそれを僕に思い出させた。



 僕は頷く。そうだ、それをすっかり忘れていた。