「昨日の渋滞騒ぎはなんだったの?」


彼女は僕と目をあわせずに質問した。


 「私が思うに、あなたって私が存在しないみたいなふるをするつもでしょう?何も死ぬほどいらつかせなくてもいいじゃない」



 まだ、とても怒っているね。彼女を何とか落ち着かせる努力はするつもりだ。彼女にうそを付かない正直な理由を思いだした。



 「あれは僕のためじゃなくて、タイラーのためだよ。僕は彼にチャンスを与えずにはいられなくてさ」


それから僕は笑った。昨日の彼女の表情を思い、どうしてやることもできなかったけど。


(ベラには、彼の表情が薄笑いに見える)



「あなたって―――」


彼女はあえぎながら言い、ついには怒りをあらわにして、急に話をやめた。それだ―――同じ表情だね。僕はまた別の笑いがこみ上げてくるのをこらえた。彼女はすでに十分に怒り狂っている。



 「それに僕は君がそんざいしないふりをするつもりはないよ」


僕は話を終わらせた。何気なく彼女をからかい続ける雰囲気を崩さないように続けた。僕がどんなに彼女のことを想っていることを見せたくても、彼女は理解できないだろう。僕は彼女を怖がらせるだろう。自分の感情を抑えなくてはならない、明るくふるまわなくては…。


 「そんなにあなたは私を死ぬほどイライラさせたいわけね。タイラーのバンがその役目を果たさなかったから?」



 突然の怒りの爆発が僕の中を脈打った。彼女は正直にそれを信じることができるのだろうか?

 それほどの侮辱で僕をいらつかせたんだ―――彼女には夜に起きた変化がわからない。


 「ベラ、君は本当にバカだね



(ベラは手の平がムズムズして、思いっきり叩いてやりたい気分になった)



 ぱっと顔を赤らませたベラは、僕にくるりと背をむけけ、歩き始めた。



 良心の呵責を感じた。僕の怒りは正当なものじゃなかった。


 「待ってくれ」


僕は頼んだ。



 彼女は歩みを止めることなく、それで仕方なく僕は彼女の後をついていった。



 「すまない。今のは失礼だった。僕は間違っていたわけじゃないけどね」


 ―――どこかで彼女を傷つけたい考えがあってばかげている―――


 「でも、とにかく失礼な言い方だったよ」



 「どうして私を放っておいてくれないのよ?」



 ―――僕を信じて。



そう言いたかった。



 ―――僕は頑張っているじゃないか。



 ―――ああ、それでいて、僕は君への愛を抱きながら、なんてひどいヤツなんだ。



 明るくふるまうんだ。



 「君に何か聞きたいことがあったのに、君が脱線させるから」


ひとつの計画が僕の中にひらめき、僕はにやりと笑った。



 「あなたって多重人格者なの?」


彼女は聞いてきた。



 その方法しかないね。僕の機嫌は跳ね上がり、新しいたくさんの強い感情が僕の中にとめどなく流れてくる。



 「ほら、またやっている」


僕は指摘してやった。



 彼女はため息をついた。


 「わかったわよ。何がききたいわけ?」



 「もしよかったら、来週の土曜日…」


彼女の顔に動揺がよぎったのを見て、また笑いがこみ上げるのを耐えた。


 「ほら、春のダンスパーティーの日―――」



 彼女はついに僕に向き直り、僕の話をさえぎった。


 「それ、嫌がらせのつもり?」



 そうだよ。


 「最後まで、話をさせてくれる?」



 彼女は黙ったままで、下唇を軽くかんだ。


(ベラはうっかり殴ったりしてしまわないよう、指と指をしっかりと組んだ)



 その様子は1秒間僕を悩ませた。不思議なことに、忘れられた僕の人間性の核が動き出して、慣れない反応を起こした。何でもないふりをして、それを払いのけようとした。



 「君がその日にシアトルに行く予定だって言っていたのを聞いたから。乗せていってあげようか?」


僕はそう申し出た。彼女の計画の中でちょうど彼女が悩んでいたとはっきりと分かる、僕はその役割を果たせるかもしれない。



 彼女はぽかんとして僕をみつめた。


 「何?」



 「シアトルまで乗せていってほしい?」


ただ彼女と車に乗るだけ―――考えると僕の咽喉が焼ける。深く息を吸った。



 ―――それに慣れるんだ。