「さあ、行きましょう」
ロザリーが苛立ってシッと不満げに言った。
「ばかな真似は止めなさいよ、できるだけ」
彼女の言葉は僕を怒らせることはなかった―――それどころか、僕はとても楽しかった。でも、僕はロザリーに答えなかった。
帰路の途中、誰も僕に話しかけなかった。今もまたベラの顔が頭に浮かぶたび、くすくす笑い続けた。
車の運転を加速させたとき―――目撃者となる人影がなくなったから―――アリスが僕の気分をぶち壊した。
「それなら私、もうベラと話をしてもいいわよね?」
何の前置きもなく、アリスが突然話しかけてきた。
「だめだ」僕は鋭く言った。
「不公平よ!どうしてまだダメなの?」
「僕はまだ何も決めていない、アリス」
「少しだけよ、エドワード」
アリスの頭の中では、ベラの2つの運命がまたクリアに見える。
「何か彼女の事でわかったことでも?」
僕は唐突に不機嫌になり、口の中でぼそぼそ言った。
「例えば、僕が彼女を殺すようなこととか?」
1秒間、アリスは躊躇した。
「ひとつあるわ」
彼女は認めた。
僕は時速90マイルでカーブを曲がり、ガレージの奥の壁から1インチの幅でキーキー音を鳴らしながら止めた。
「走って楽しんできたら」
車から飛び降りると、ロザリーがいやに気取って言った。
でも今日の僕は走りに行きたくない。その代り、狩りに行った。
他の家族は明日狩りに行く予定だった。だが今の僕は咽喉の渇きに余裕が持てない。無理にでも必要以上に血をのんで自分を満たした―――小さなヘラジカの群れと、幸運なことにこの時期にしては早く目覚めたフラフラと歩く黒熊を1頭。気持ちが悪くなるくらい、とても満たされた。なぜ必要なだけの量でおさまらない?なぜ彼女の匂いは他のなによりも強く香るんだ?
僕は明日の準備で狩りをしていた。もう狩りをやめようととしたとき、一刻一刻まだ太陽が昇ってこないことで、明日がまだきていないことを知った。
彼女に会いたいんだとはっきりと悟ったとき、この神経過敏な感情の高ぶりは、再び僕をつき動かした。
フォークスへ戻れと自分を説得し始め、かろうじて残っている僕の高潔な部分がそれに反論する。そして僕は弁解の余地のないプランを持って前へ進んだ。僕の中のモンスターがざわいたが、しっかりと鎖でつながれている。彼女から距離を保つべきだとは分っている。僕は彼女がどこにいるのか知りたいだけなんだ。ちょうど彼女の顔が見たかったんだ。
真夜中すぎ、ベラの家は灯りもなく静かだった。彼女のトラックは縁石の傍に停められ、車道には父親のパトカーがある。近所のどこにも人の気配を感じない。東側にある街路樹の影から、一瞬家を見た。入口のドアは鍵がかけられているだろう―――問題はない、もともとドアを壊して立ち去るような証拠を残すつもりはない。初めから二階の窓から侵入するつもりだった。そこに鍵をかける程、うるさい人はそういないだろう。
僕は開けた庭を横切り、1秒半で家の正面によじ登った。家のひさしからぶら下がり、片手で窓の上に上がる。窓ガラスを通して覗き、呼吸を止めた。
そこは彼女の部屋だった。小さなベットで眠る彼女の姿が見えた。カバーが床に落ち、足元にはシーツがからまっている。見ていると、彼女は眠れないのか体を動かし、片腕を頭の上に放り投げた。少なくとも今夜だけは、深く眠れないようだ。自分の近くに危険を感じているのだろうか?
もう一度彼女の放り投げる仕草を見て、自分を叱った。覗きをする男の病気をどうにかできないだろうか?僕には他にいい方法がない。
あまりにも、あまりにもひどすぎる。