僕はバックミラーでベラの様子を確認した。彼女は僕とは視線を合わせず、僕の車の後ろについて渋い顔をしている。



(ベラは、ぴっかぴかのボルボの後部をぶち壊してやりたかったが、一目があまりにも多すぎたため止めた)



 タイラーは僕の不可解な行動に感謝し、車を急がせてベラの後ろに着いた。彼はベラに手を振って彼女の注意を引こうとしたが、彼女は気付かない。


(ベラはバックミラーでタイラーが手を振っていることに気付いていたが無視し、前にいるエドワードと目を合わせないよう視線をあちこち走らせている)



タイラーは一瞬間をおいて車から降り、彼女の助手席側の窓までぶらぶらと歩いた。そして窓をノックする。



 彼女は飛びのき、うろたえながらタイラーを見つめた。1秒後、彼女は手動で窓を下したが、何かトラブルが起きたようだ。



 「ごめんなさい、タイラー」


イライラした声で彼女は言った。


 「カレンの車が停まったままなの」



 厳しい声で僕の姓を口にする―――彼女はまだ僕に怒っているんだ。



「ああ、分かっているよ」


タイラーは彼女の様子にかまわず話を続けた。


「ただ動けなくなっている間に、ちょっと君に聞きたいことがあってさ」



 彼は気取って、歯を見せて笑った。



 彼のあからさまな態度に彼女は蒼白になり、その様子に僕は満足した。



 「ダンスパーティーに僕を誘ってくれないかな」


そうたずれる彼の頭の中に、負けはなかった。


 「私はその日、町にいない予定なのよ。タイラー」


彼に話す彼女の声には、まだ苛立ちがある。



 「うん、マイクがそう言っていたね」



 「それなら、どうして―――?」


彼女は目を丸くして尋ねた。



 タイラーは肩をすくめた。


 「あいつを傷つけないように、そう言ったんじゃないかって思ったんだ」



 ベラは目をしばたかせ、冷静にこたえた。


 「ごめんね、タイラー」


そう言った彼女の声には、全然すまないと思っている様子がない。


 「私、本当に町の外に出かけるつもりなの」



 タイラーは彼女の謝罪を受け入れた。彼の自信は無敵だな。


 「それならいいんだ。それじゃ、卒業記念のプロムを楽しみにしているから」



 彼は自分の車に気取りながら戻っていった。



 こうして待っていて正解だったな。



 ベラの顔に浮かんだ恐怖の顔はおもしろかった。そしてそれは、死にもの狂いで知る必要もないことも物語っている―――こういった彼女に言い寄る人間の男性を、彼女はよく思わない。


 それはまた彼女の表情が、今まで僕が見てきたものの中で最もおもしろいものだった。



 その後、兄弟たちが車に到着し、僕の変わりように混乱していた。見るからに怖い人殺しのものではない笑顔が、終始顔に浮かんでいる。



 ―――何がおかしいんだ?



エメットが知りたがった。



 怒ったように騒音を立ててエンジンを吹かすベラに、僕はまた笑っていたことにショックを受けると同時に、頭を振った。



(ベラにはバックミラーごしにエドワードがタイラーとのやり取りを見ていて、エドワードが肩を震わせて笑っているのが分かった)



彼女はまたトラックに祈りをささげているように見えた。



(ベラは軽くボルボにぶつけてやりたい衝動にかられていた)