エリックは大声をあげるのをこらえて、のどぼとけを上下に動かす。


「やあ、ベラ」


 彼女はエリックのびくびくしている様子に気付いていないようだ。



 「いま帰り?」


エリックのどぎまぎしている表情を見もせずに、ベラはトラックの鍵を開けながらたずねた。



 「あの…僕と一緒にダンスパーティー行ってくれないかな?」


彼の声がかすれた。



 彼女はついに彼の顔を見上げた。ベラはあっけにとられた?それとも喜んだ?エリックは彼女と視線を合わせることができず、そのせいで僕は彼の意識を通して彼女の表情を読み取ることができなかった。



 「女子が相手を選ぶんだと思ってたけど」


彼女は慌てた声で言った。



 「うん、まあ」


彼は恥ずかしそうに認めた。



 この哀れな少年は、マイク・ニュートンと同様にあまりにも僕をイラつかせた。ベラが彼に優しい声でこたえるまで、彼の不安に同情する気にはなれなかった。



 「誘ってくれてありがとう。でも、その日はシアトルに行く予定なの」



 彼はすでにこの話を聞いていた。まだ望みがあると思っていたようだ。



 「そっか」


エリックは彼女の鼻の位置まで、かろうじて視線をあげ、口の中でもぐもぐ言った。


 「それじゃ、また今度」



 「そうね」


彼女は同意した。それから、まるで彼が離れるのを残念がるかのように、唇を少しかんだ。僕はその顔が好きだ。



 エリックはがっかりして前かがみになって立ち去った。彼の車の方から早く立ち去りたいという思いだけが伝わってくる。


 僕が彼女の脇を通り過ぎたとき、彼女の安堵したため息が聞こえた。僕は笑った。


 その音で彼女はぐるぐる見回したが、僕はまっすぐ前を見据え、おかしさで唇がひきつるのをこらえるのに必死だった。


 タイラーが僕の車の後ろにいて、ベラが帰る前に彼女をつかまえようと急いでいる彼に、もう少しで車を突進させるところだった。彼は他の二人よりも、図太くて大胆だ。彼はマイクを尊重して優先させ、その間ベラへのアプローチを待っていたのだ。


 僕は2つの理由から、彼がベラに会えればいいと望んだ。もし―――僕はうすうす気づき始めたからね―――この注目の全てが彼女にとってうざいものなら、僕は彼女のリアクションを見て楽しむだろう。でも、もしそうでなかったら―――もしタイラーの誘いの仕方が、彼女の望んでいたものだったら―――その時は、僕はそれを知りたい。


 それが間違っていると分っていながらも、僕はタイラー・クローリーが到着したときのことを考える。彼は人並みでつまらない、僕の注意を引くような人物でもない。だが、僕はベラの好みの何を知っている?もしかしたら、彼女はどこにでもいるような、ごく普通の少年が好きなのかもしれない…。


 僕はその考えにたじろいだ。僕は決してごく普通の少年ではない。愚かなことに彼女の愛情を受けるライバルが頭から離れない。



彼女はモンスターにとって、あまりにもいい獲物だ。


 僕は彼女を逃がすべきなんだ。なのに僕の許しがたい好奇心は、正しい事をさせない。今回もだ。でも、もしタイラーがこのチャンスを逃してしまったら、僕が結果を知る術がなくなるわけで、彼女を遅らせて接触させるか?僕はボルボを滑りこませて、彼女の行く手をふさいだ。


 エメットは他の家族と歩いている途中で、彼は僕のこの奇妙な行動を言葉で表現できない。それに彼らは僕が一体何をしようとしているのか見極めようと、ゆっくりと歩いている。