マイクは生物学クラスでベラに歩み寄ったとき、彼の神経は高揚していた。僕は到着するまで待ち、彼の努力をきいていた。あの少年は意志薄弱。彼女が自分を選んでマークしていることを明らかにする前にのぼせ上がることを恐れて、彼はわざとこのダンスを待っていた。彼は、彼女が胸を躍らせる男を選び、自分が拒否されることで傷つきたくなかった。


 この臆病者。



 彼は非常になれなれしくも楽にして、再び僕たちのテーブルに座った。もし彼の身体を向こうの壁に骨が粉々になるくらいの十分な力で叩き付けることができたらと想像する。


 「それでさ」


マイクは床を見ながら彼女に言った。


 「ジェシカから春のダンスパーティーに誘われているんだ」



 「よかったじゃない」


ベラは感激して即答した。無言のマイクの反応に彼女の声のトーンは沈み、笑顔は難しいようだ。彼はうろたえながらも期待している。


 「ジェシカとなら、きっとすごく楽しいわよ」



 彼はいい反応をしようと混乱した。


 「うん…」


彼は口ごもり、いつものように怖気づいてしまう。それから自分を奮い立たせた。


 「考えさせてって言ったんだ」



 「どうしてそんなことしたのよ」


彼女は強く聞いてきた。彼女の声は避難めいていたが、同様にほのかに安堵したようなものも含まれていた。



 これはどういうことだろう?


予期しない事態に、激しい怒りがこみ上げ拳を固くにぎらせた。


 マイクは彼女の安堵に気付かなかったようだ。彼の顔は血で真っ赤に染まり―――誘惑を感じ、僕は不愉快だった―――また俯いて床をみながら話した。


 「ちょっと思ってたから…君が僕を誘うつもりじゃないかって」



 ベラはためらった。



 彼女がためらった瞬間、僕はアリスが前にみたものより、さらにクリアに未来がみえた。


 この少女は、今のマイクの申し出にイエスと答えるかもしれないし、そうでないかもしれないが、いずれにしろ、いつかは誰かの誘いを受けるだろう。彼女は可愛らしく、好奇心をそそり、そして人間の男たちはこの事実に気付いていない。彼女がこの活気のない連中の誰かに決めるか、もしくは彼女がフォークスから離れるまで待つかどうかは、その日は彼女がイエスと言ったときに来るだろう。



 僕は前に彼女の人生をみた―――大学、仕事…恋、結婚。僕はもう一度、薄い透き通るようなドレスを着て父親の腕の中にいる彼女をみた。ワーグナーの行進曲に合わせて歩く彼女の顔は幸せで赤らんでいた。



 心の痛みは以前感じていたほどではなくなった。人間は死期を迎えるときにこの痛みを感じることになるだろう―――人間はそれをなくして生きられない。



 そして心に痛みを感じないのに、怒りも全くない。



 激しい怒りは、はけ口を求め肉体のどこかしかを痛めつける。取るに足らないことだけれど、分不相応な少年は彼女に誘いを受け取ってもらえないかもしれないが、僕はこの手で彼の頭蓋骨を砕いてやりたいと思うやつらの代表として立ち上がりたいものだ。



 僕にはこの強い感情が理解できなかった―――痛みと怒り、欲求、絶望とがこれほど絡み合うなんて。


 以前の僕は決してそんな感情を抱くことはなかったし、どんな感情なのか名前をつけることも出来なかった。