ちょうどホールからカーライルの声が聞こえた。



 「全てはコネの問題だよ」


僕は明るく言った。


 「でも、心配ない。僕が君を釈放してあげるよ」



 父が部屋に入ってきたとき、僕は注意してベラの反応をみた。彼女の目は大きく見開かれ、驚きであんぐりと大口を開けていた。僕は心の中でうめき声をあげた。そう、彼女は僕たちが似ていることに気付いたのだ。


 (ベラには映画スターの誰よりもハンサムに見えた)



 「さて、ミス・スワン。具合はどうかな?」


カーライルがたずねた。彼は驚くほど滑らかな物腰で、一瞬にして多くの患者の心をつかむ。それがベラにどんな影響をもたらすのか言うことはできなかった。



 (ベラにはおそろしく魅力的な声に感じたが、早く帰りたい一心でそれどころではない)



 「平気です」


ベラは即答した。


 カーライルはベッド脇のライトボードにベラのX線写真を留めた。


「レントゲンは問題ないね。頭痛はするかね?かなり強く頭を打ったと、エドワードが言っていたから」


 ベラはため息をついてもう一度言った。「私は平気です」この時の彼女の苛立ちは、声からも察することができた。それからベラは僕を軽くにらんだ。


 カーライルは彼女に近づき、ベラの髪の下にこぶがないか、頭皮を静かに指で押していく。


 僕は何かが崩れてしまいそうな、感情の波を抑えることができなかった。


 僕はカーライルが何千回も人間ししてきた仕事を見てきた。1年前だって非公式に彼を手伝ったことさえある―――血が伴う状況ではない場合に限るけど。だから、この行為は僕にとって新しい触診でもない。カーライルがベラと同じ人間であるかのように、彼女にそう感じさせるように彼は診察している。


 僕は彼の自制心に対して何度も羨ましく思ったが、こんなに強い感情を抱いたことはなかった。彼の自制心以上に、彼自身に嫉妬している。カーライルと僕との違いにあこがれていた―――彼はベラにとても滑らかに触れることができる、恐れを抱かせずに、彼は彼女に絶対に危害を加えないから…


 彼女がひるんだのを見て、僕は座っていたイスを引いてしまった。落ち着いた姿勢をとらなくては。


 「触ると痛い感じかな?」


 ベラのあごが、わずかに上がった。


 「それほどでも」


彼女は言った。


 ベラの性格の新しい一部分が見えた気がする。彼女は気が強い。自分の弱点を見られることが嫌いなようだ。


 ひょっとすると、僕が今まで見たことがある中で最もすきだらけな生き物なのに、彼女は自分の弱点を見せたくないんだ。つい、笑い声をもらしてしまった。


 (ベラにはまた偉そうに笑っているように見えた)


 ベラは僕をぎらぎらと睨みつけた。