2022-02-11. Fri.
つい今しがたの事。
和室の仏壇の真上には祖母の遺影が飾ってある。
桜が好きだった祖母の背景色はうっすらとした桃色の淡いグラデーションに白い淡雪のような点々。
いつも見ているのだが、何か気になった。
テーブルの上に残っていた茶菓子入れには包まれたお煎餅がひとつ。
味気ないが寝る前にお供えとお線香をしようと仏壇に近寄った私の目に有り得ない惨状が。
(寝る前の線香というのも危険である)
汚い。
最初は虫でもわいてるのかと思った途端に
自動的に魂と断末魔が口から噴き出そうになった。
背けた目が更に捉えたのは干からびた米粒。
昇天するかと覚悟した瞬間に脳だけはフル回転して助かった。
いや、これは……これはヒドイ。
祖父が毎朝、毎晩力任せに爆音で鳴らすリン(鐘)の回りにある仏具──香炉、ロウソク立て、仏飯器の下が線香の灰、蝋燭のカス、お供えするご飯をこぼした米粒、マッチの燃えカスが散乱していた。
(ウソだよぉぉぉぉぉ……)
仏壇の中が地獄と化している、見たくもない光景が目の前に。
とは言え、見てしまったからには放ってはおけないので写真立てやら他の仏具やらを先ずは避難させる。
そして100円で買ったMYミニほうきとミニちりとりでアクリルガラスの上を掃除した。
祖父は何故かライターやチャッカマンでなく、
家族の「危ない」という言葉を無視してわざわざマッチで線香に火をつける。
この人には危機管理能力が無く、失敗からの学習能力も欠如しているのだが、それらの被害を被るのは本人以外と私が物心ついた頃から決まっている。
そんな訳で仏壇にはおよそ不釣り合いなアクリルガラスが仏具の下に敷いてある。
マッチの残り火があったとしても木よりはマシで、
尚且つ、祖父が気が付きにくく片付けにくい安全策なのだ。
私が仏壇を掃除するのは、
祖母が他界してから二度目。
その前にも何度かはあったが、祖母のお位牌や写真立て(遺影とは別のもの)を備えた時が前回。
それから2年。
早いものだが、こんな事で……とも思う非常に残念極まる事態。
お墓には週に一度、もしくは二度訪れ、線香を焚いたり、墓や卒塔婆の設置台、周囲の掃除をしている。
別に仏壇に手を合わせるのが嫌だとかいう奇妙奇天烈奇想天外な持論など無いが、
敢えて言うなら祖父と同じ事をしたくないという気持ち(充分に奇怪か?)。
雨降ってるし面倒だから行きたくないと葬式に出席せず、自分の妻を「見送る」という夫、喪主の役目をすっぽかした上に、
49日、一周忌の法事も「行かね」の一言で済まして
友達と遊びに行くクソ野郎と同じ場所には立ちたくない。
「俺はご飯と水を仏壇にやってる。それが供養だ」
合っているが違う。
アンタは先ず初手でイカれていると親戚、近所に知らしめてしまった。
「何も無い田舎──貧相な辺境の地に聡明な小町をチャリで連れて帰ってきた」
と、ウチの近所のご老体なら誰でも知っている有名なこの土地の昔話。
ソレを……怒
コレもやはり本人だけが分かっていない。
まあ、剥がれ切ったメッキを更に剥がしてもイライラするだけなのでこのくらいにしておきたい。
片付けが終わり、仏具を入れ、祖母の写真立ての向きを直し終えた時に私の耳元で、
「ちり〜ん」
と、小さくも綺麗な音色がハッキリと聞こえた。
「ん?」
リン(鐘)を確認するも、鳴らす金属棒だけが床に置いたままだった。
「なんだ、おばあちゃんか」
祖母のあの言葉、「サンキュ〜」の代わりだったのだろう。
|˙ㇺ.)ノ゙なう(2022/02/11 04:58:02)