真夏の夜の夢2

私はゆっくりと後ろを振り返った。

人が立っていた。

リネン庫のドアの前に。

全身の毛が逆立つ感じがした。

だって、顔がはっきり見えない。目と口の窪みの影しか見えない。足があったかどうかは覚えていない。浴衣(病衣)を着ている。

「わ、生きてる人じゃない。」そう思ったと同時に私はエレベーター傍の階段に向かって走っていた。走れど走れど階段まで届かない。時間差で私が激突したワゴンが倒れバケツがひっくり返る音が響いた。

ほとんど四つん這いで階段を駆け上がり、1階にやっとの思いで到着。

すぐ右手に病棟入り口がある。

息を整え、ナースステーションに入った。

もう、恐怖でいまにも崩れ落ちそうだった。

ナースステーションの真ん中のデスクに座っていたSさんというリーダーが

「どうしたの?真っ青だよ。」と言った。

私は「あの、幽霊見たんです。氷を置いてきてしまいました。」

Sさんはフーンという顔をして「じゃあ朝まで氷少ないけど何とかしようか。明るくなったら日勤さんが出て来る前に取りに行って。」

正直私はまた行くのかと思ったが、「はい。」と返事をした。

先輩が「大丈夫、私も一緒に行ってあげる。」

ああ、なんて優しい先輩。

よろしくお願いしますと先輩にも返事をして、何とか普段通りの仕事が再開。

みんなでナースステーションのデスクで記録をしていると、Sさんが「ねえ、さっきあなたが見た幽霊だけどさ。」と口を開いた。

「白い浴衣着てなかった?髪が黒くてさ。リネン庫の前にいなかった?」

もう一度鳥肌が立ち、私は一言も発する事が出来なかった。

私は幽霊を見たとは言ったが、姿がどんなだったかは言っていない。そんな余裕はなかった。

Sさんは続けた。

「私も新人の時、同じ人を見たわ。ずっとあそこに居るのね。」

夜が明け、白々としてきた頃私は先輩と2人で地下2階へ向かった。

製氷機の前は倒れたワゴンとバケツ、周りは氷が溶けて水浸し、先輩は掃除と片付けも手伝ってくれた。

新卒で迎えた初めての夏の出来事。