「競技会の緊張感が恋しくなることは絶対にないと言い切れる」
2022年、決意表明会見でそう話した羽生くん。
試合が好きだとあれほど言っていた彼から出た強い言葉に
「だよね…」と思ったファンは多いんじゃないかなと思います。
やり切ったと思えたからこその清々しい気持ち
プロになって震災復興の支援をしたい気持ち
アマチュアではできなかったスケートの新しい世界を作りたい気持ち
そのどれもがあったかもしれないし、なかったかもしれないけど
私はやっぱり
納得できない思いや、ルールや採点の理不尽さに苦しんだ末
競技に見切りをつけたのかなと感じました。
また、もしそれが最大の理由であったなら
そんな思いで競技を退いたアスリートを私は知らないので
辛いな…と思います。
2016年に引退を表明した
ボクシングバンタム級、元世界王者の長谷川穂積さんが私は好きです。
長谷川さんはいつも早いラウンドでKO勝ちするので
テレビの放送時間が余ってテレビ局が困ってしまうことがよくありました。
ある日、全く危なげなさそうだった試合で
長谷川さんが不意にもらってしまったパンチにふらつき、そのまま連打され
ロープにもたれたままパンチを浴び続けるのを
私はテレビでただ呆然と見ているしかなかったことがありました。
それまで長谷川さんが負ける試合を見たことがなかったので
その日はショックで夕飯も食べずに泣きました。
長谷川さんにはがんで闘病していたお母さまがいらっしゃったのですが
お母さまに最先端の治療を受けさせるために
高額な費用をファイトマネーから出していました。
でもこの敗戦が
お母さまがリングサイドで見た最後の試合となってしまったのです。
長谷川さんは引退までに3階級制覇を成し遂げ
チャンピオンのまま競技生活を終えました。
無冠ではなく王者として競技を終えた自分の姿を見て
天国のお母さまも喜んでくれていると長谷川さんは言いました。
そんな長谷川さんは大好きなボクシングを恋人に例えて
引退までの逡巡する思いを語りました。
「いつかは別れなければならない恋人と、きれいに別れる時を探している」
引退にしろ、現役続行にしろ、選ばなかった道に後ろ髪を引かれるのは仕方ない
引退後にそう話した長谷川さんは
自身で思い描いた以上の道を歩み、最高の終わり方をしてもなお
競技が恋しいと言いました。
トップアスリートが競技を引退する時
世界で戦えるレベルでいられなくなったり
年齢による体力の限界が理由である場合が多い印象ですが
羽生くんはどちらも当てはまらない特殊なケースだと思います。
でもそんな羽生くんだからこそ
競技を恋しく思うことはないと言い切れたのでしょうか…
羽生くんが構想を練っていたプロの世界が
それまでよりもはるかにシビアで、刺激的で
自分を成長させてくれると思えたからだったのか…?
競技に見切りをつけたとかそういうことではなくて。
いつものことながら
そんな、羽生くんにしか解らないことをふと考えてしまった休日でした。