18 | 相続バトル

18

新たな委任状を見せられた私は、頭の中をフル回転させた。


前にレッドがあの委任状を祖父に書かせに来た日は・・・平成13年(2001年)3月15日・・・だったはず。
このときのじいさんはボケていただろうか。きっとうすらボケだった・・・はず。
でも確かレッドはまたもや、お金の話をしたために、祖父に怒られて帰ったはずだ。
ただうすらボケのときでも、ボケの傾向がある時期なら委任状を書くなどの契約は無効となる。
しかもそのとき部屋は二人っきりだった。


そして目の前のある委任状を見て気になったのは、3月15日ではなく、8月15日に訂正しているところだった。
3を無理やり8に見えるようにした形跡がある。○を二つ、縦にくっつけたような∞を縦にしたような感じ。
こういう書類は日付が新しいほうが有効となるのはレッドもわかっているらしい。
ここで私は訂正印がないし、法的手段に出られてもこの書類は無効、だから助かったと思った。


とりあえず安心しながら聞いてみた。



ブルー2「この日付けのときは、じいさんはボケていたよね?」
レッド「ううん、うすらボケだった時期だけど、このときはしっかりしていたよ」


レッドも引かない。


日付が訂正されている部分を除くと、文章の書き方も内容もしっかりしている。
そんな委任状を目の前にして、祖父の妹と祖父の姪もたじろいでいるように見えた。
でも彼女達は、通帳をレッドに渡したらお金を使われるとわかっているので私に味方をしてくれた。


祖父妹「こんなもの書くかねぇ」「だってここは商売をしているでしょ?」「お金がなければ商売できないじゃない」「おじいさんの字かどうかわからないけど…」「なんでおじいさんがここまで書く必要があるの?」


ブルー2「しっかりしていたと言っても、二人っきり?の時に書いたんだよね」「それにおじいさんはもう、レッド叔母さんのことを娘だとわかってないんじゃないの?」


実際そうである。認知症が進んだ祖父は、自分で言うのもなんですが、私のことは孫だとわかっていた…と思う。
そして私の母も嫁としてかろうじてわかっているかな…?、という状況である。
他の人はもちろん誰だかわからない。誰かが「おじいさん、見舞いに来たよ」と言っても、祖父は「あぁ」「ははは…」としか言わない。
祖父は「誰?」と聞くのが失礼だとわかっているようだ。だから何か言われても話を合わせることしかできない。だから「あぁ」「ははは…」だけなのです。
そんな祖父が、娘のレッドに対して「あぁ」「ははは…」だけしか言わなかったのは私は知っている。


レッド「そんなことないよ」


ブルー2「だってレッド叔母さんは介護に関して何もしてないよね?」「介護のいいところしか見ていないと思う」


レッド「だって・・・」


祖父妹「兄さんは、こんなこと書かないと思うよ」


レッド「・・・」


祖父妹「こんなこと書くかねぇ」


レッド「ん・・・」




しばらくの沈黙・・・。




レッドは下を向きながら泣いているよう。


レッド「うん・・・」「みんながそう言うなら仕方ないね・・・」「じゃあブルー2くん、もうこの紙は出さないね」


そう言いながら委任状をバッグに戻した。
私はそれなら「委任状を渡して」と言おうかと思ったけど、そういうことをしてこっちが慌てていると思われたくない。でんと構えているほうがいいだろうと思ってそのまま何も言わずにいた。
そしてレッドはというと、祖父妹や祖父姪を説得させる自信があったせいか、自分の思い通りにならなかった悔しさのせいか、明らかに涙を流しているのがわかった。


レッド叔母・・・、これが普通なんだよ。
自分ではうまいことを言ったと思っても、どこかで無理があるんだよ。
自分の感覚で辻褄が合うことを言ったとしても、聞く人は自分の経験や感覚で考える。
今まではおじいさんの娘だからということで、周りは黙って言うことを聞いてきたと思う。
でも状況は変わった。現状を理解してほしい。


そして私は、ここまでしてくれる親戚がいることを心の底から、本当にありがたいと思った。
レッドは場合によっては法的手段に出てもおかしくない人である。
そうなったら明らかに私は不利な立場になる。
でもレッドも心のどこかで親戚付き合いも大事だと思っている…はず。
祖父妹と姪はキツいことを言わず、そこをうまく利用してレッドを諦めさせてくれた。
本当に心の底から、ありがとうございますと言いたいです。


そしてレッドは諦めて、そそくさと帰って行った。




祖父姪「レッドさんって、あんな人だった?」「何でいきなりあのように変わったの?」「旦那さんは何て言ってるんだろう」
祖父妹「うーん…」
ブルー2「旦那さんとは前からうまくいってないみたい」「家庭内別居状態とか」
祖父姪「そりゃそうよね」「旦那さんもかわいそうねぇ」


祖父姪は気持ちのいい人である。思ったことを言ってくれる。しかも言っていることが間違っていない。
私も正直、なんでレッド叔母とその旦那は離婚しないのかと思っていた。
お互いに意地の張り合いとか、慰謝料の問題もあるのだろうか。
でもそれは本人達にしかわからないのだけどね。


この日は祖父妹・姪にしっかりとお礼を言って自宅まで送っていった。