脳卒中後の利き手交換により非損傷側皮質脊髄路の数が増える?−48名の脳卒中者を対象に検証− | 脳の治療を考える

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ニューロリハビリテーション研究会BRAIN代表の針谷遼です。
神経科学の論文を紹介したり臨床応用について考えたことを記事にします。
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私達は手足を自由に動かすことができます。自分の意思に基づく運動を随意運動と言いますが、皮質脊髄路(corticospinal tract: CST)は随意運動を起こす上で重要な神経線維です。ヒトは左右に大脳半球を持ち、CSTも左右に存在しています。

 

脳卒中後のリハビリテーションのひとつに利き手交換があります。例えば、右利き手の人が脳卒中により右片麻痺になってしまった場合、左手を利き手にするためにトレーニングします。日常生活を送る上ではどうしても手を使う必要があるので、非利き手で自由に道具操作をできるようにするのが目的です。

 

脳卒中後のリハビリテーションとして利き手交換を行った場合、CSTにはどのような変化が生じるのでしょうか。48名の脳卒中者を対象に、検証されました。

 

《非損傷側のCSTと運動機能を2回調査》

対象は48名の右利き手の脳卒中患者でした。対象者をA群:右片麻痺を発症したものの軽度障害のため右手の運動機能が残存している12名、B群:重度右片麻痺発症後に左利き手に変更した17名、C群:左片麻痺発症後で右利き手を維持している19名、の3群に分けました。

 

非損傷側のCSTについては拡散テンソルトラクトグラフィー(diffusion tensor tractgraphy: DTT)を用い、2回検査されました。1回目は発症から平均23 ± 15.40日目、2回目は発症から平均472±449.17日です。第1関心領域(region of interest:ROI)を橋上部の前方部分、第2ROIを橋下部の前方部分と設定しました。

 

また、fractional anisotropy (FA)、apparent diffusion coefficient (ADC)、voxel number (VN)も評価されました。

 

非麻痺側機能の評価として握力、Manual Function Test(MFT)、Purdue Pegboard Test(PPT)、modified Barthel Index(MBI)が用いられました。MFTは上肢の運動機能を評価する検査です。DTTの評価日に合わせてこれらも2回評価されました。

 

《2回目の評価時に非損傷側CSTのVNが増えていた》

結果として、重度右片麻痺発症後に左利き手に変更したB群では握力、MFT、PPT、MBIの全てのデータにおいて、2回目の得点が1回目の得点を上回っていました。また、非損傷側のCSTのVNは2回目の評価時に1回目の評価時よりも有意に増加していました。VNの変化は、握力、PPT、MBIの変化と中等度の相関を示しました。

 

なお、A群とC群では各種DTTパラメータ(FA、ADC、VN)において1回目と2回目で有意な変化は認められませんでした。

 

脳卒中後に利き手交換をすることにより、非損傷側皮質脊髄路の線維数が増加すること、また、それが非麻痺側上肢の運動パフォーマンスの向上と関連する可能性が示唆されました。

 

非麻痺側を頻繁に使用することで麻痺側は「学習された不使用」となると言われていますが、構造的な面でも非麻痺側の使用を後押ししているのかもしれません。

 

 

《参照文献》

Jang, Sung Ho, and Woo Hyuk Jang. "Change of the Corticospinal Tract in the Unaffected Hemisphere by Change of the Dominant Hand Following Stroke: A Cohort Study." Medicine 95.6 (2016).

 

 

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