私たちが身体を動かすためには筋肉が収縮する必要がありますが、そのためには大脳皮質から脊髄へ情報が正しく伝わる必要があります。
大脳皮質から脊髄へ情報を伝達する下行路は大きく分けて2種類あり、ひとつは外側運動制御系(皮質脊髄路など)、もうひとつは内側運動制御系(網様体脊髄路など)に分けられます。
一般的に、外側運動制御系は主に随意運動に関わるとされ、内側運動制御系は姿勢制御への関与が強いとされています。特に、細かい運動が必要になる手の運動については、外側運動制御系のひとつである皮質脊髄路の関与が強いと言われています。
しかし、内側運動制御系は手の運動に関与しないのでしょうか。今回紹介する研究では、内側運動制御系のひとつである網様体脊髄路と手の運動との関係性を調査しています。
《2種類の手の課題を通して網様体脊髄路の興奮性を調査》
対象は17名の健常者でした。対象者は椅子に腰掛けた状態で、示指を外転させるFinger課題か、MP関節を屈曲するGrasp課題のいずれかを実施しました。なお、いずれの課題も右手で行われました。
課題開始の合図として、80dBの音(電話の話し声くらいの大きさの音)を対象者に聴かせました。しかし、この音はランダムに128dB(落雷くらいの大きさの音)の音に置き換えられ、対象者のstartReact反応を引き起こしました。
startReact反応は大きな音を聴かせることにより対象者を驚かせ、不随意的な筋活動を引き起こすものです。この反応では網様体脊髄路が遠心路となっているため、引き起こされた不随意的な筋活動を通して網様体脊髄路の興奮性を評価することができます。
しかし、128dBの音を聴けば必ずstartReact反応が生じるというわけではありません。実際、実験の最中には128dBの音を聴かせてもstartReact反応が無いこともありました。startReact反応の有無は胸鎖乳突筋の収縮の有無によって評価され、胸鎖乳突筋の収縮があるときはstartReact反応(+)、収縮がないときはstartReact反応(-)と判断されました。
したがって、測定の主対象となる筋活動は対象者の右第一背側骨間筋でしたが、startReact反応かどうかを調査するために右胸鎖乳突筋からも筋電図をとり、筋活動を計測しました。
課題開始の合図として80dBの音を使用したときと、128dBの大きな音を使用しstartReact反応を引き起こしたとき、128dBの大きな音を聴かせてもstartReact反応が引き起こされなかったときとを比較し、筋活動の大きさや潜時がどのように変化するかを評価しました。
《128dBの開始音のときにGrasp課題で筋活動が大きくなり潜時が短くなった》
結果として、Grasp課題では、80dBの開始音のときや128dBの開始音でstartReact反応(-)のときと比較すると、128dBの開始音でstartReact反応(+)のときに第一背側骨間筋の筋活動が大きくなり、また、開始音から筋活動が記録されるまでの潜時が短くなりました。
一方、Finger課題では80dBのときと128dBのときには違いが認められましたが、startReact反応(+)のときと(-)のときとでは筋活動の大きさや潜時に違いは認められませんでした。
すなわち、Grasp課題ではstartReact反応によって網様体脊髄路が興奮させられたために筋活動の大きさや潜時が変化したと考えられ、MP関節を屈曲させる運動には網様体脊髄路の関与があることが示唆されます。一方、Finger課題ではstartReact反応を起こしても筋活動の変化が認められなかったことから、指を外転させる運動には網様体脊髄路の関与は小さいと考えられます。
手内筋のひとつである第一背側骨間筋にも、網様体脊髄路の支配がある可能性が示唆されました。ただし、手の動かし方によって網様体脊髄路が活動するかどうかは変わってくるようです。この結果は、脳卒中の方のリハビリテーションに役立つかもしれません。
《参照文献》
【ニューロリハビリテーション研究会BRAIN第34回勉強会のお知らせ】
2017年9月7日(木)19:30~21:00、東京都江戸川区のタワーホール船堀様にて「脳卒中後の運動障害の評価と治療を考える 〜皮質脊髄路と皮質網様体路の視点から〜」をテーマに開催いたします。プレゼンターは当研究会代表の針谷遼です。オブザーバー参加が可能です。当研究会ホームページ(下のリンク)よりお申し込みをお願いいたします。
http://neuroreha-brain.net/workshop34
【ニューロリハビリテーション研究会BRAIN第4回特別勉強会のお知らせ】
2017年10月8日(土)19:30~21:00、東京都江戸川区のタワーホール船堀様にて「神経学に基づくリハビリテーション〜脳画像を臨床に”活かす”ために〜」をテーマに開催いたします。講師は脳機能とリハビリテーション研究会顧問の沼田憲治先生です!当研究会ホームページ(下のリンク)よりお申し込みをお願いいたします。

