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脳の治療を考える

ニューロリハビリテーション研究会BRAIN代表の針谷遼です。
神経科学の論文を紹介したり臨床応用について考えたことを記事にします。
ご意見・ご指導いただけますと幸いです。

 

私達は手足を自由に動かすことができます。自分の意思に基づく運動を随意運動と言いますが、皮質脊髄路(corticospinal tract: CST)は随意運動を起こす上で重要な神経線維です。

 

脳卒中などによりCSTが損傷すると運動障害が生じますが、リハビリテーションによって運動障害は改善し得ます。運動障害が改善するプロセスで、CSTはどのように変化しているのでしょうか。発症時は完全麻痺を呈していたにもかかわらず、発症から16ヶ月後にほぼ正常な状態まで回復した症例のCSTの変化過程が報告されています。

 

《脳出血により片麻痺を呈した37歳女性を追跡調査》

症例は脳出血を発症した37歳女性、MRIでは左の大脳基底核や放線冠に出血を認めていました。運動機能はMotricity Index(MI)とMedical Research Concil(MRC)を使用して評価されましたが、発症時は全て0点で重度障害を有していました。しかし、発症16ヶ月時点では運動障害はほぼ回復し、箸を使用して食事をすることができるようになりました。

 

この症例に対し、発症から1ヶ月、4ヶ月、16ヶ月時点で運動機能、拡散テンソルトラクトグラフィーdiffusion tensor tractgraphy: DTT、functional MRI(fMRI)、短母指外転筋の運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)が測定され、経時的な変化が調査されました。

 

なお、DTTではCSTの構造的変化を、fMRIでは麻痺側手運動時に活性化している脳領域を、MEPでは短母指外転筋を支配する皮質脊髄路の興奮性を評価しています。

 

《発症からの時間経過とともに皮質脊髄路の起始領域が変化していた》

発症時はMI、MRCともに0点でしたが、発症16ヶ月時点ではMI totalが92点、MRCが4〜5点となり、運動機能を大幅に取り戻しました。

 

MEPは発症1ヶ月では記録されませんでしたが、4ヶ月、16ヶ月では記録されました。また、発症1ヶ月時点では麻痺側の運動性が無かったため、fMRIを測定できませんでした。発症4ヶ月、16ヶ月時点では麻痺側手を動かしたときにprecentral knob(運動野の手の支配領域と言われる領域)に集中した活動を認めました。

 

興味深いことに、CSTは発症1ヶ月時点では後部頭頂葉から、4ヶ月時点では一次体性感覚野から、16ヶ月時点では一次運動野から出ていました。

 

あくまでも一症例の経過報告であり、全ての人に当てはまるわけではありませんが、CSTの起始領域が変化していたというのは大変興味深い報告です。発症1ヶ月時点でCSTが後部頭頂葉から出ていたということと、運動機能が乏しくMEPやfMRIが測定できなかったということとは何か関係があるのでしょうか。今後の研究に期待がかかります。

 

《参照文献》

Jang, Sung Ho, et al. "Demonstration of motor recovery process in a patient with intracerebral hemorrhage." NeuroRehabilitation 22.2 (2007): 141-145.

 

【ニューロリハビリテーション研究会BRAIN第34回勉強会のお知らせ】

2017年9月7日(木)19:30~21:00、東京都江戸川区のタワーホール船堀様にて「脳卒中後の運動障害の評価と治療を考える 〜皮質脊髄路と皮質網様体路の視点から〜」をテーマに開催いたします。プレゼンターは当研究会代表の針谷遼です。当研究会ホームページ(下のリンク)よりお申し込みをお願いいたします。

http://neuroreha-brain.net/workshop34

 

【ニューロリハビリテーション研究会BRAIN第4回特別勉強会のお知らせ】

2017年10月8日(土)19:30~21:00、東京都江戸川区のタワーホール船堀様にて「神経学に基づくリハビリテーション〜脳画像を臨床に”活かす”ために〜」をテーマに開催いたします。講師は脳機能とリハビリテーション研究会顧問の沼田憲治先生です!当研究会ホームページ(下のリンク)よりお申し込みをお願いいたします。

http://neuroreha-brain.net/seminar4