「真治、あんたぁ今までどこ行っとったんね?」



「別に」



「別にじゃなくて、何しよったんか教えてぇや。」



「何で言わんにゃあいけんのん。」



「なんでって、皆心配しとるけぇよ。」



「いや、関係ないじゃろ。」


「関係なくないわいねぇ。」


「なんでや、関係ないじゃろぅがい。




「皆心配しとるんじゃって。頼むけぇ言うてぇや。」



「関係ないわい!」



「関係なくない!!!」

突然母は声を荒げた。




「関係なくない。。」



母の目から涙がこぼれた。





母の涙。
正直驚いた。

今まで何度となく喧嘩はしたが、
涙を見たのは初めてだったからである。




蓮池の両親は、
父はサラリーマン、
母は小学校の教師であった。


共働きだけあって、貧しい暮らしではなかったが、
決して贅沢な暮らしをしてる訳ではなかった。



ファミコンや漫画の類は全く買ってもらえなかったし、
ズボンが破れたら、繕って、
履けなくなるまで履いていた。



うちの両親の子育ての理念は、

「贅沢はさせてあげないが、教育はしっかり受けさせてあげる」

というものだった。



簡単に言うと、かなり真面目でしっかりした両親である。




母は貧乏の出で、かなり苦労して大学を出て、教師になったようだ。

父は戦後の混乱期に生まれたが、
父の母(蓮池少年の祖母)は教師、
父の祖父祖母も教師という、
聞いただけで身震いする家に育った(笑)。
東京の大学、大学院を出て広島へ帰り、
某企業に勤めていた。



しかもビックリな事に、
父の高校時代の恩師の娘が、
蓮池の母である。



いやはや、恐ろしい話である(笑)。



という事で蓮池家、
一見恐ろしい教師家系であるが、
決して教育を押し付けるという、
いわゆる教育ママ、パパという訳ではなかった。

子供達がやりたいと言う勉強をトコトンやらせるというスタイル。

今思い返しても、非の打ち所がない両親である。



両親の言う事は、常に正しかった。



ただ、あまりに出来すぎた両親であったせいか、
蓮池少年は若干の息苦しさを感じていた。
今思うと、両親のように立派な人間にならなければならないと、
勝手にプレッシャーを感じていたのかもしれない。

贅沢でバカな話である。




ということで、非常に真面目な母。
常に子供達の事を考えながら育てて来たのに、
自分の想像を遥かに超える反抗をする息子。
ついにどうして良いか分からなくなったようであった。



泣き崩れる母に呆然とする息子。


その時父が帰って来た。



異様な空気を察知した父。



「2人共、仏壇の部屋行こうか。」



蓮池家では、何か真面目な話、
もしくは説教事があると、
必ず仏壇の前で、話し合いが行われるのである。



「お母さん、まあ落ち着きんさい。
真治、何があったんや?」


落ち着いたトーンで父が聞いてきた。


父、母、ご先祖様の視線が、
蓮池少年をとうとう観念させた。



「わし、新しいベースが欲しくて、
バイト初めたんじゃ。」


「バイトって、何のバイトね?」


「天下一品っていうラーメン屋。」


そう言って鞄から、
天下一品のアルバイトマニュアルを出して、
両親に渡した。


「ほうか。あんたぁ、高校はバイト禁止じゃろ。どうするんや?」

「禁止じゃろうが、わしはバイトがしたいんよ。もし何か言われたら責任とる。」

「(笑)。責任ってなんや?」

「…とにかく、反対されようが何言われようが、もうすでに始めた事じゃけぇ、わしはやるけぇ!」


「ちょっと待て。わしがいつ反対じゃぁ言うたんや?」


「…」


「今回お前の問題はの、わしらにちゃんと相談せずに、バイトを始めた事で。」


「ほいでも言うたら反対するじゃん。」


「じゃけぇ、反対じゃって言うとらんじゃん。しかも責任とるって、今のお前には何の責任も取れんので?」


「…」


「まあとにかく、良かった。わしもお母さんも、何か悪い事に誘われとんじゃないかって、心配しとったんで。」

「そんな事…で、バイトはええん?」


「正直学校で禁止されとる事じゃけぇ、両手上げて賛成出来んが、やりたいんか?」


「うん。」


「まあ、一度始めた事は最後までせんにゃあいけんし、とりあえずやるだけやってみい。それでええかね?お母さん?」

「…うちは…正直反対じゃけど、とりあえず何しとるか分かって安心はした。」


「ほうじゃね。まあとにかく真治、これからは何かある時は、わしとお母さんに相談するんで?お前がなんぼ責任とる言うても、お前にはまだ責任取れんのじゃけぇ(笑)。」


「分かった。」


「あともうお母さん泣かすなよ(笑)。」

「いや、分からん。」

(笑)



こうして、蓮池少年のバイトは半分許可された。

自分の意見は通ったが、なんか負けた気がした蓮池少年であった。



親は偉大である。



つづく


はす