コンタクトをはめ、髪の毛をセットした蓮池少年。



髪の毛をセットしたと言っても、
所詮田舎のがきんちょ。
とりあえず立てておけば正確と思っている節がある。

気持ち的な舞い上がりもあり、
セット終了後にはまるで昔の布袋寅泰、
もしくは吉川晃司のような髪型になっていた。


言うならば、一人COMPLEX状態である。

ビーマイベイベーである。



しかし、それがカッコイイと思っていた蓮池少年は、
いき勇んで、研修場所である、天下一品中広店へ。




よっしゃ!今日からやったるけぇの!

とりあえず、最初の挨拶が肝心って
イエローページ(広島の求人雑誌)に書いてあったし、
しっかり声出して行こう!




ガチャ


裏口の扉を開けると、中には一人の男性が。




「おはようございます!」









「今日から研修の蓮池です。あの、どうしたらよろしいでしょうか?」









無視




「あの、どうしたら…」









きたー!大人社会のイジメ、きたー!!

ちょっとー!
そのうち靴の中に画鋲とか入れられちゃうんじゃないの?

私もうテニスなんて出来ない!
助けて!お蝶夫人!!




いきなりのガン無視攻撃にアタフタしていると、
店の奥から一人の男性が。

面接をしてくれたK野さんである。



「おー蓮池君、今日からよろしくね!
とりあえずユニホームに着替えて、ホールに出てきてくれる?」





K野さんは当時、中広店のチーフをやられていて、
4月から東雲店の副店長になられる方だった。

タッパ(身長)もそこそこあり、
優しそうな白髪混じりのおじさんといった感じだった。



ちなみに入口で蓮池をガン無視した男性、
その後仲良くなり(仲良くして頂き)、
ほぼ毎日一緒に遊び、

蓮池に社会の厳しさ、
良い事も悪い事も、
悪いことも悪いことも
全部教えてくれた恩人の一人、N内さんであった。




入口でのガン無視事件に面喰いながらも、
ユニホームに着替え、ホールへ。


ホールに出ると、もう一人の中広店チーフであるN川さん、
新入社員のN口さんがやさしく挨拶をしてくれた。

二人のやさしさに少し救われた蓮池少年、
接客の仕方、伝票の書き方などを習い、
いざ本番の接客に入る。



最初のお客さんは30代の男性だったように思う。
注文は並ラーメン(スタンダードなコッテリラーメン)。



「並1お願いします!」

「はいよ!!」



あ、なんか気持ちいい!
楽しいかも!!




初めての注文が通り、
ほっと一息の蓮池少年。

その後も次々と注文をとり、
徐々に仕事に慣れていった。




なんや~!接客なんて楽勝じゃの~
こんなんじゃったら、研修なんて、
すぐ終わってしまうわ!!


だんだん調子づいてきた蓮池少年。
だがその時、





ピリッッ




店内の空気が変わった気がした。



「おはようございます!」
「おはようございます!!」
「おはようございます!!!」


店の奥から挨拶の声が響く。


中広店店長の登場である。



K野さんが駆け寄ってきた。


「あの人がこの店の店長で。
紹介するけぇ、挨拶しんさい!!」



恐る恐る挨拶に行く蓮池少年。




「あ、あの、、今日から研修の蓮池真治です。
よろしくお願いします。」



「・・・なんやその髪型は。
布袋みたいでかっこええの~


・・・直してこい!!!」






はい~~~~~
かしこまりました~~~~




タッパはそんなにないが、眼光鋭い目。
少し高めだが、ドスの利いた声。

蓮池少年の動物的カンがこう告げていた。



サカラッタラヤラレル




急いでトイレに駆け込み、
水で髪型を直し、
ダッシュでホールに戻る。

すでにガクブルだったが、
名誉挽回とばかりに注文をとりに行く。



「並1お願いします!」

「聞こえん。」



「並1お願いします!!」
(裏返る声)


「・・はいよ。」



しゅ、姑の嫁イビリか!
お義母さん、お願いですから実家へ帰らさせてください!!



・・・



この後の記憶はほとんどない。
ただただがむしゃらに働いたような気がする。
気が付いたら更衣室でタイムカードを押し、
ため息をついていた。


「はぁ、すごかった。。
わし、ちゃんとやっていけるじゃろうか・・・」


身体も心もクタクタになった蓮池少年。
帰ろうと更衣室の扉を開けると、
そこにN川チーフが笑みを浮かべて立っていた。


「お疲れ。大丈夫か(笑)。
まあ、今日のは新人への洗礼みたいなもんじゃけえ気にすんなよ!
あの人、ああ見えてええ人じゃけぇ。
ま、そのうち分かるよ。
じゃあ、また明日の!!」



・・・



あ、、明日もあるんですよね。。研修。。。
わし、ヤラレちゃわないですかね。。。

あ、、逆にこのままトンズラする方が
ヤラレちゃいますよね。住所もバレてるし。

わしに選択肢なんてないんですもんね。
がんばって働くという選択肢しか・・・



心の中でツイートしながら、
引きつった笑顔で挨拶を済ませ、
足取り重く帰路につく、蓮池少年であった。



つづく



はす