琴仁夏バリトンリサイタル | ディーダラスのひこーき工房 ~Dedalus's Aviation Studio~

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「ホップ、すてっぷ、ジャンプしたらそのまま飛んでいけ!」
 "Hop, step, jump and fly away!" This is the studio to build "airplanes" from materials in the storehouse in my brain...

雨。台風が近づいているのです。

今日はオペラ歌手をしている従兄の琴仁夏が東京の市ヶ谷でリサイタルを行う日。
偶然にも休みだったので、嫁さんと一緒に新幹線で東京まで行ってみることにした。嫁さんは「リサイタル」という語に馴染みがないらしく、最初リサイクルと間違えていた。「琴仁夏リサイクル」。一体何を再生利用するつもりなのか。間違えて古いテレビを持っていかないように監視していたが、幸いなことにすぐに気づいてくれたので助かった。東京は予想通りに湿っぽい。癖っ毛の俺は、東京について30分で早くも湿気で髪がカールしてしまい、ベートーヴェンのような風貌になった。リサイタルに行くのにふさわしいと言えなくもない。嫁さんは2時に友人と待ち合わせをしていたので、俺は一人で神保町の古書店街へ向かった。せっかく雨の中行ったのに、目当てにしていた北沢書店は改装中で10月まで閉店とのこと。仕方なく妹夫婦の待つ新宿へ向かう。新宿は今最もテロが起きやすいと俺が勝手に思っている町だ。思ったとおり新宿駅周辺にはあちこちに警察官が立っていた。ロンドンでは行く先々でカバンの中を見せろと言われた俺だが、さすがに自分の国では怪しさも紛れるというものだ。一度も声をかけられずに済み、善人としての自信を回復した。待ち合わせしていた妹夫婦と会って一緒に夕食を食べた後、いよいよ市ヶ谷へと向かう。従兄のリサイタルがあるのは市ヶ谷駅から歩いて5分ほどの場所にある「ルーテル市ヶ谷」。会場に着くと、既に何人かの人たちが並んでいた。外で少し待っている間に従兄の両親がやってきた。従兄の母親とはつい最近会ったばかりなのだが、父親の方とは久しぶり。元気そうでよかった。開場になって中に入り、席についていたら今度は従兄の妹と弟がやってきた。俺たちのすぐ前の席に座った彼女たちと久しぶりの再会を喜んでいると、いきなり従姉が言った。「あんたらがわざわざ遠くから来るっていうのがプレッシャーになったんだよ!」威勢のよさは相変わらずだ。この中で何度か仁夏君の歌を聞いているのは、弟だけらしい。それ以外のメンバーは全員緊張して開演を待っていた。この緊張感はなんだろう。俺が知っている仁夏君の姿といえば、極真空手にハマッて山の中で毛布を巻いた木を殴りまくったり、ブルース・リーの鋼の肉体を賛美して拳立てをしたり、イタズラ電話のような電話をかけて嫁さんをビビらせたりする乱暴者そのものの姿だ。そんな乱暴者でリサイタルをする人間なんて、ジャイアン以外に俺は知らない。いきなりホゲ~なんて言われたらどうしよう、と思っていたらとうとう始まった。仁夏君が登場。もともと180センチ以上ある大きな体が、舞台の上ではさらに大きく見える。最初俺はなぜか仁夏君の顔を直視できず、目の前にいる従弟のうなじとシャツの襟を見つめていた。しかし、ピアノの音とともに歌いだした仁夏君の声を聞いて、あれっと思った。声量も声質も、俺が知っているいつもの彼の声とは全く違う。相当な練習を積んだんだろうなあ、と感心すると同時に、俺はやっと当たり前のことに気づいた。彼はプロなのだ。そう気づくと、知っている人が歌うことに気恥ずかしさを感じていた自分がバカバカしく思えてきた。これはちゃんと気合を入れて聞かなければ損だ。闘牛士の歌、帰れソレントヘなど、プロが歌うプロの曲を2時間聴き、俺は満足した気持ちで席を立った。その後、親戚一同と夕食をともにして、その夜は仁夏君の家に泊めてもらった。リサイタルをした本人の家に泊めてもらうなんて、なかなかあることではない。リサイタルを開くまでの苦労やプロとして気をつけていることなど、いろいろと話を聞いているうちに夜中の2時。翌日にすぐ帰るのが嫌に思えるほど楽しい時間を過ごした。ぜひまた行こう。