今日は午後から仕事。よくわからない会議に義理で出席して、内容は半分も理解できていないのに、したり顔で3時間うなずき続ける、という仕事をこなしてきた。
ずっと気が滅入っている。周りの人にそう話したら、「五月病じゃない?」と言われた。「五月病、かなあ…」と半信半疑の俺。「どんな感じ?」とその人に聞かれたので、俺は最近の気分を説明した。「えーと、朝起きた瞬間からもうダルくて…とりあえず仕事に行きたくないね。で、昼くらいからやっと気分が良くなってきて、夕方から夜にかけてが絶好調。夜、職場を出るときに、『よーし、明日もガンバルぞぉー』って思う」「あー、そりゃあ完全に五月病だぁ。ちゃんと趣味持って、気分転換しないとダメだよ」五月病というのは便利な病名だ。そう名づけただけで、まるでそれが治療法の確立された既知の病気で、しかも五月限定のものであるような錯覚を起こさせる。「なんか、四月くらいから元気がないんだけど」「まあ、それでも五月病っていうことでいいんじゃない?」五月以外にかかっても五月病。いくらシニフィエとシニフィアンの間の結びつきが恣意的とはいえ、これほどのズレに無頓着であってもいいのか。そう思いながら自分の席に戻ると、隣でMさんが仕事をしていた。そういえば、今度職場のみんなでおそろいのTシャツを作ることになっていて、Mさんのサイズを聞いていてくれって頼まれたんだった。俺はMさんの方を向き、Tシャツのサイズを尋ねた。するとMさんは少し慌てた口調で言った。「あの、くれぐれもサイズ間違えないようにちゃんと伝えてくださいね。他人に任せると、いつも間違えられて、だぶだぶのTシャツを着ることになるんですから」「そうですか。で、サイズは?」改めておれが尋ねると、Mさんはまっすぐ俺の方を見て言った。「性格はMだけど、サイズはSなんです」「……そうですか……。僕はきっと、Mさんは性格がSでサイズがMだと思っていましたけど」「みんなそう思うみたいで、いつもMサイズをよこされるんです」「……そうですか……。ところで、性格についての情報も付け加えて伝えるべきですか?」「いえ、それはどちらでも…。とにかく、性格とサイズは一致しないということを言っておきたくて…」「そういえば、僕も性格はSですがサイズはLです」「……そうですか……」とかく世の中では呼び名と実質が一致しないものなのだ。奈良の由緒ある美しさという意味の名を持つMさんと、偉い人間という意味の名を持つ俺は、互いにうなずきあった。