去年あたりから、俺とMさんの間では、「いかにして儲けることができるか?」という話が流行している。
まあ、二人ともド素人なので、株や投資信託については北朝鮮の国内事情と同じ程度の知識しかない。それでもあれこれ話しているうちに、「憧れは駐車場オーナー」ということで意見の一致を見ていた。「一台の駐車スペースで、月3万円くらいの収入になるそうですよ」俺が聞きかじった知識をもったいぶって披露すると、Mさんがノッてくる。「そうすると、5台で15万円。10台で30万円。フハハハハハハハハハハハハハハ」ひとしきり笑ったところで、肝心の土地を持っていないことに気づいたMさんの哄笑が止んだ。「やっぱり、土地がないとどうにもなりませんねえ」そんなMさんだが、今日の夕方、俺の隣の席に座ると、いきなりこんなことを話しだした。「この間知り合いに聞いた話なんですけどね・・・コインロッカーのオーナーっていうのがオイシイらしいんですよ」「ロッカーのオーナー?」「ええ。あれなら、管理に手間もかからないようですし。月に一回点検に行くくらいでいいそうです」いつものことながら、Mさんの情報は、出所がどこかが分からない。そう言えばこの前も、手をかざすだけで傷を癒せる人に人生の教えをいただいた、というようなことを言っていたような気がする。この話もその「手かざし」の人から出た話だったらどうしよう、と思いながらも俺はコインロッカーオーナーについて考えてみた。なるほど。一回200円から300円で、一日10個も使われれば2000円から3000円になる。土日も関係なく収入はあるだろう。いや、むしろ土日の方が多いかもしれない。それに、一回設置してしまえば確かに手間もかからなそうだ。「いいかもしれませんね、それ」俺が言うと、Mさんがにやりと笑った。「ええ、私もなんか良さそうだなって」「ねえ」「ねえ・・・」終わりらしい。俺は黙ってパソコンを開き、コインロッカーオーナーについて調べてみた。五分後、俺はおもむろに無言のMさんに向き直り、この五分間で得た情報の全てを伝えた。「あの、都心にロッカーを設置するのを請け負っている会社のことを調べてみたんですけど。一回の使用料200円のロッカーを20台設置して、その稼働率が100%だとすると、一日の売り上げが4000円ですよね。そこからロッカーの管理等を委託している会社に払う管理費や設置費を支払うと、残りは2000円ちょっとです。それが一ヶ月続くと、一月の収入は65,000円くらいですね」「65,000円かあ・・・」Mさんが遠くを見つめる目になった。「でも、これはあくまでも稼働率100%だったら、っていう話ですから。稼働率30%くらいだったら、月20,000円くらいですよ」「20,000円!」Mさんが般若の顔になった。「だって、それ、都心の話でしょ?月に一回、『土日きっぷ』使って東京に様子見に行っただけで、18,000円かかるんですよ。そしたら残り2,000円じゃないですか!」「完全に道楽ですね」Mさんの勢いにたじろぎながら俺が答えた。あきらめきれないMさんが、粘り腰を見せ始める。「でも、稼働率さえ上がればいいわけでしょう?だったら、人がたくさん通りそうなところを設置場所に選ぶとか、どうですかね?それとも、人が荷物を預けたくなるようなデザインを工夫するとか。いや、荷物を預けたら楽しいことが起きるようなロッカーを作るっていうのもいいかも・・・」費用のかさみそうな方向へどんどんと突き進むMさんの話を聞きながら、俺は、そもそも俺たちには金儲けの才能がないのではないかということにやっと気づき始めていた。