まねき猫にまねかれて -Ⅳ- | ブルパのみゅみゅみゅMUSIC&NOVEL

□尾石荘・201号室・ダイニングキッチン
裕 美「田中君、私――」
   裕美の言葉を遮るように、玄関のチャイムが鳴る。
裕 美「(ビクッとして)つけられてたのかも……」
田 中「(励ますように)大丈夫。僕がついてるから」
裕 美「(縋るような目で)田中君……」
田 中「とにかく、押入れに隠れてて」
   と、続き間の寝室に裕美をつれていく。

□尾石荘・201号室・寝室
   裕美、押入れに入る。
   田中、押し入れを閉める。
   ――ドンドンとドアを叩く音。
田 中「(平静を装って)はーい」
   と、わざと足音を立てて玄関に向かう。

□尾石荘・201号室・玄関
   田中、裕美の靴に気づき、慌てて下駄箱に隠して、
田 中「(深呼吸をして)どなたですか?」
男の声「(オネエ言葉で)アタシよ」
田 中「(緊張が解けて)なんだ、金太かよ」
   と、チェーンを外してドアを開ける。
   花柄のブラウスを着た大男・早乙女金太が顔を出す。
早乙女「(不満気に)もう、早く開けてよ」
   と、遠慮なくずんずんと部屋に上がりこむ。
   田中、鍵をかけ、ドアチェーンをして、
田 中「(うんざりと)――で、何の用だよ?」
早乙女「あら、用がなくちゃ来ちゃいけないのかしら? せっかく
   肉マン買ってきたのに」
   その時、押し入れが開いて、ひょっこり裕美が顔を出す。
早乙女「(裕美と目が合って)きゃあー! お、女がいる!?」
裕 美「(キョトンと)……」
早乙女「(興奮して)ちょっと、誰よ、この女?」
田 中「同じ会社の中山裕美さんだよ」
裕 美「(会釈して)どうも……」
田 中「(裕美に)友達の早乙女金太」
早乙女「どーもー、金太どぅえす」
   空気がシラーッと。
早乙女「(部屋に敷かれた布団を見て)いやだ! アンタたち、ま
   さか……ここで……」
田 中「(焦って)バカ! 何言ってんだよ」
早乙女「バカって言わないで!」   
田 中「(呆れて)彼女、何か事件に巻き込まれちゃったみたいな
   んだ」
早乙女「(疑り深い目で)えー、事件?」
    ×    ×    ×    
   田中と裕美と早乙女、無言で肉マンを食べている。
裕 美「(決心したように)田中君、私――」
早乙女「じゃあ、アタシ、失礼するわね」   
   と、腰をあげる。
裕 美「待ってください。金太さんも聞いてください」
   早乙女、いいの? と田中を見る。
   田中、いいよと頷く。
裕 美「実は、二週間前、六本木のクラブで……」

□裕美の回想

□六本木・交差点(夜)

□クラブ「レジェンド」看板

□同・店内
   ほぼ満席の盛況で、ホステスと客が談笑している。

□同・控え室
   裕美(源氏名はレナ)、ドレスに着替えている。
   OLの時とは、化粧も髪型も変わり、さらに華やかな印象。
   ノックがあり、ボーイが顔を出して、
ボーイ「レナさん、5番テーブル、急いでください。」
レ ナ「はーい(と、鏡で全身をチェック)」
   
□同・店内
   自信たっぷりに歩いてくるレナ。
   レナの美貌に、客の視線が集まる。

□同・5番テーブル
   熟年客(顔は見えないが例の男)とホステスが話している。
   レナ、歩いてきて、
レ ナ「(お辞儀して顔をあげ)失礼します。レナで――」
   と、熟年客と目が合って固まる。
ホステス「(怪訝そうに)どうしたの?」
レ ナ「いえ、何でも……(と、席につく)」
ホステス「新人のレナちゃんです」
   レナ、愛想笑いをするが、熟年客と目を合わせない。
熟年客「よろしくね、レナちゃん」
   と、レナの手を握る。
レ ナ「(ビクッと)こ、こちらこそ……」
熟年客「うぶで可愛いねえ」
レ ナ「(動揺して)すみません、ちょっと忘れ物しちゃって」
   と、席を立つ。
   熟年客、したり顔でレナを見送る。
   
□同・控え室
   レナ、駆け込むように入ってきて、
レ ナ「(動揺して)どうしよう……」
   その時、ドアが開いて、熟年客が入ってくる。
レ ナ「(ハッとして)……!?」
   熟年客、ゆっくりレナに近づいて、
熟年客「(レナの顎をもって)君は確か……総務課の、中山君だっ
   たね」
   ――熟年客の正体は、二階堂部長。
レ ナ「(顔をそむけて)……」
二階堂「そうか、ここではレナちゃんか」
   と、全身を舐め回すように見る。
レ ナ「(身動きできずに)……」
二階堂「社則でアルバイトを禁止していることを、君は知らなかっ
   たのかな?」
レ ナ「それは……」
二階堂「人事の耳にでも入ったら、間違いなく君はクビだよ」
レ ナ「(必死に)見逃していただけませんか? 私、クビになっ
   たら困るんです」
二階堂「そうは言っても、私も取締役の一人として、このまま見過
   ごすわけにはいかんなあ」
レ ナ「(さらに必死に)二階堂部長、お願いです」
二階堂「……まあ、私も鬼じゃないんだ。魚心あれば水心と言うだ
   ろう。――今度一緒に食事でもどうかね?」
レ ナ「(縋るように)はい」
二階堂「(意味深長な微笑み)……」

□元の尾石荘・201号室・ダイニングキッチン
田 中「そんなことがあったんだ。――でも、どうしてアルバイト
   なんて?」 
裕 美「……母がね、入院してるの」
田 中「えっ!? 裕美ちゃんのお母さん、病気なの?」
裕 美「(頷いて)もともと丈夫な方じゃなかったんだけど、無理
   がたたって……」
田 中「じゃあ、入院費のためにアルバイトを?」
裕 美「(苦笑いで)それだけじゃないの。亡くなった父が残した
   借金があって……」
田中・早乙女「(驚いて)ええっ!?」
裕 美「(訴えるように)でもね、父は悪くないのよ。伯父の連帯
   保証人になったんだけど、伯父は初めから父に借金をかぶせ
   るつもりだったの。それで、とうとう父は自殺して……(あ
   とは涙で言葉にならない)」
早乙女「(もらい泣きして)アンタも苦労してんのねえ」
田 中「――それで、二階堂部長からは?」
裕 美「(涙を拭って)一週間前、ホテルに呼び出されて――」

□裕美の回想

□東京湾岸ホテル・全景

□同・901号室・前
   裕美、ドアの前を行ったり来たりしている。
   しかし、意を決したようにチャイムを鳴らす。
   ほどなくドアが開き、二階堂が顔を出して、部屋に入るよう
   目で合図をする。
   裕美、部屋に入っていく。

□東京湾岸ホテル・901号室・リビングルーム
   二階堂と裕美、向き合って立っている。
二階堂「良く来てくれたね」
裕 美「(緊張して)あのぅ……お話って?」
二階堂「立ち話もなんだ。座ってゆっくり話そうじゃないか」
   と、裕美の肩に手をかける。
裕 美「(手を振り払って)私、やっぱり失礼します」
   と、部屋を出て行こうとする。
二階堂「まあ、待ちなさい(と、腕を掴む)」
裕 美「離してください(と、抗う)」
二階堂「(冷たく)クビになりたいのか?」
   裕美、抵抗を止める。
二階堂「(猫撫で声で)安心しなさい。悪いようにはしないから」
   と、裕美の肩を抱き、ソファーに座らせる。
裕 美「(俯いたままで)……」
   二階堂、シャンパンを2つのグラスに注ぎ、一つを裕美に渡
   して、
二階堂「さあ、乾杯しよう」
   と、裕美のグラスにグラスを合わせるが、裕美は飲もうとし
   ない。
二階堂「(察して)毒なんて入っていないよ」
   と、ごくごくと飲む。
   裕美、覚悟を決めたように、一気にシャンパンを飲み干す。
二階堂「(感心して)いい飲みっぷりだ。さあ、もう一杯いこう」
   と、裕美のグラスにシャンパンを注ぐ。
   裕美、今度も一気に飲み干す。
   しかし、目がうつろで、倒れるようにソファーに横になり、
   持っていたグラスが床に落ちて割れる。
   二階堂、裕美を見つめてニヤリと笑う。

□同・ベッドルーム
   裕美、目が覚めると、下着姿でベッドに寝ている。
裕 美「(頭痛で顔を歪め)うう……」
   裕美、自分が下着姿であることに気づいて慌てる。
   部屋の隅に洋服を見つけ、急いで着る。
   隣室から、何やら話声が聞こえる。
   裕美、ドアの隙間から隣室を窺う。

□同・リビングルーム
   二階堂と美登里が、シャンパンを飲みながら話をしている。
美登里「(写真を見ながら)悪い人ねえ……。こんなことして、い
   つかきっと痛い目に合うわよ」
二階堂「お前だって、同じ穴のムジナだろう」
   と、女将を抱き寄せ、首筋にキスする。
美登里「それよりどうするの? あの娘そろそろ目が覚めるわよ」
二階堂「因果を含ませて帰すさ。社内に自由にできる女子社員がい
   ると、何かと便利だからな」
   と、タバコに火をつける。
美登里「大丈夫なの? 警察にでも駆け込まれたら……」
二階堂「(煙を吐き出して)そのためにこれがあるんじゃないか」
   と、写真の束をテーブルに投げる。
   ――写真の被写体は下着姿の裕美。

□同・ベッドルーム
裕 美「(自分の写真だと気づき)……!?」
   と、たまらずに部屋を飛び出す。

□同・リビングルーム
二階堂「(裕美を見て)やあ、お目覚めかい?」
裕 美「(憤って)ひどい、こんなことして」
   と、写真を一枚取って、ジッと見る。
   裕美の目に、みるみる涙が溢れてくる。
二階堂「上手く撮れてるだろう?」
   裕美、写真をかき集めて――
裕 美「私、警察に行きます」
   と、部屋を出て行こうとする。
二階堂「まあ、待ちなさい(と、裕美の腕を掴む)」
裕 美「離して!(と、振り払う)」
二階堂「警察に行っても無駄だよ」
裕 美「(驚いて)えっ!?」
二階堂「(開き直って)だってそうだろう? ホテルを尋ねてきた
   のは君の意志だし、酔った勢いで服を脱ぎ、写真を撮ってほ
   しいとせがんだのも君じゃないか」
裕 美「(憤って)どうして私がそんなこと」
二階堂「……そうだな、警察にはこう話すことにするよ。クビにな
   りたくない一心で、君が色仕掛けで私の部屋を尋ねてきたと
   ね(と、笑う)」
裕 美「そんなこと、警察が信じると思うの?」
二階堂「さあ……試してみるかい?」
裕 美「(二階堂に殴りかかって)あなたって人は、あなたって人
   は(と、泣き叫ぶ)」
   二階堂、裕美を床に叩き付けて、
二階堂「いいかげんにしないか!」
   裕美、号泣しながら、床を叩く。
   二階堂、乱れた着衣を直して、
二階堂「悪いようにはしないよ。ちょっと力を貸してくれるだけで
   いいんだ」
   と、したり顔で裕美を抱き起す。
   
□元の尾石荘・201号室・ダイニングキッチン
田 中「(憤って)二階堂のくそ野郎!」
裕 美「元はと言えば、私がいけないのよ」
田 中「(激昂して)裕美ちゃんは悪くないよ」
早乙女「うっ、うっ、うわーん……」  
   と、突然、子供のように泣き出す。
   田中と裕美、驚いて早乙女を見る。
早乙女「(チーンと鼻をかんで)ひどい話。……でもね、負けちゃ
   ダメよ。辛いことの後には、必ず幸せが待ってるんだから」
裕 美「(涙ぐんで)金太さん」
田 中「(よく言ったという風に)金太」
早乙女「 女の気持ちは、女にしかわからないものよ。 裕美ちゃん
   (と、手を取って)、か弱い女同志、助け合って生きていき
   ましょう」
裕 美「(戸惑いながらも)は、はい……」
田 中「(呆れて)はい、はい」
    ×    ×    ×
裕 美「……それで、昨日また二階堂に呼び出されて、田中君を誘
   うようにって……」
田 中「(苦笑いで)何かあるんだろうなとは思ってたよ」
裕 美「ごめんなさい(と、頭を下げ)。田中君のキャッシュカー
   ドの情報を盗み出すように言われて……。(訴えるように)
   でもね、私、情報は渡してないのよ。だから、二階堂の手下
   に追い掛けられて……」
田 中「わかってるよ、そんなこと」
裕 美「(目をうるませ)信じてくれるの?」
田 中「(笑顔で)もちろん」
裕 美「(涙を流して)ありがとう。――でも、気をつけないと。
   二階堂の狙いは、田中君の2億円なんだから」
早乙女「(キョトンとして)もしもーし。あのー、ちょっとお聞き
   しますけど、2億円って何のこと?」
裕 美「田中君、宝くじで2億円当てたんですよ」
早乙女「(金額の大きさにピンとこず)宝くじ? 2億円?」
裕 美「(サラッと)ええ」
早乙女「(理解して)ちょっとアンタ、2億円当てたなんて、聞い
   てないわよ!」
田 中「(悪びれずに)言ってねえもん」
早乙女「何で言わないのよ」
   ――電話が鳴る。
   みんな驚いて、ビクッとする。
   田中、電話の液晶画面を見るが、非通知設定で電話番号が表
   示されていない。
   田中、オンフック(みんなにも聞こえるように)にして、
田 中「(電話に出て)はい、田中です」
   ――無言で返答がない。
田 中「(ズバリと)二階堂部長、あなたですね」
                      

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