大怪獣はピアノが大好きだ。

弾くのも聞くのも好きで、練習も好き。

プレゼントには
「楽譜が欲しい」
と言い、周りを呆れさせる5歳児だ。



3歳から音楽教室に通い始め、今年で3年目。

最初は仲良しのお友達がいること、素敵な先生がいること、音楽を聞きながら踊ったり歌ったり、を楽しんでいた。



それがある日。



私が小学生の頃に音楽教室で習った曲を何気なく弾いた、その音に反応したことから始まった。

何度か繰り返し弾くことを要求し、私の指先を凝視する大怪獣。そして

「最初はこんな感じだよね」

と音をとり始めた。

面白半分に教えていて、気付いたら熱くなっていた私。



今日はこの辺で終わりにしようか?

「じゃあ明日は続きからね!」



長くは続かないとたかをくくっていた。
大怪獣はグループレッスンに通っている。弾くだけでなく歌うこと、身体でリズムをとること、音符を書くことも一回のレッスンの中に入っている。
文字通り、音を楽しんでくれればいいなという理由で教室に通い始めた訳だし、無理をすることもないと考えていた。



次の日。

楽譜を用意し
「今日はどこから?」
と催促する大怪獣。

飽きるまで付き合うか…と母子のレッスンは始まった。




結果、「参りました」は私の方だった。

その曲を練習している間、私は何度も「同じ間違いを繰り返してる!」と怒った。何度も「この曲はまだ早いんだよ!」と投げ出した。

しょんぼりする大怪獣。

こんなことならもっと簡単な曲で…と曲の変更も提案した。

「この曲を弾けるようになりたい!」

頑固な大怪獣。

疲れる私。

…怒るから疲れるんだ。次の日から多少のミスはいいことにしよう、褒めてあげようと反省した。



そして次の日。

前日までのところでつまずく。

昨日までなら「違うでしょ!」と言っていたが…今日は多目にみてあげよう。

うん、大体できてるね!





このレッスンを開始後、初めて大怪獣は泣き、そしてキレた。



「お母さん聞いてたの?ちゃんと教えてくれなきゃ、できるようになんないでしょっ!!」





…ごめん。



そうだね。



あなたの真剣さに向かい合わなきゃ駄目だね。







一月半を費やし、つっかえながらも一曲を通して弾けるようになった。

普通に習えば小学校3年生以上で弾く曲だ。

楽譜は読めなくとも私が教えられるが、指の長さはどうしようもない。

それを全ての指の動きを覚え、次の音につなげることで解消した大怪獣。

音楽教室でのレッスンの後、先生に聞いてもらい
「頑張ったね!」
と褒められるのもやる気に繋がったのだろう。

弾けた時は
「やったぁ~!」
と満面の笑みの大怪獣。
私は涙で顔を上げることができなかった。






リヒナー作曲『忘れな草』
英語名『Forget Me Not』




大怪獣さん。


練習が大嫌いだったお母さんは、ひたむきに弾けるように努力しているあなたが羨ましかったよ。


「好き」という気持ちは、困難をものともしないんだね。


これからのあなたの人生で頑張り時は何度もあるだろうけど、挫けそうになったその時は、どうかこの曲を、お母さんと練習したこの曲を思い出して下さい。


きっとあなたなら乗り越えられる。
そう信じています。




お母さんは〈あなたが弾いた〉この曲を忘れない。

この先どんどん上手になって、この曲をスラスラ弾く日も来るんだろうけど、お母さんにとってはどんなピアニストが弾くよりも今のあなたが弾く『忘れな草』が心に響くよ。


よく頑張ったね。
弾けてよかったね。

そして、素敵な演奏を聞かせてくれてありがとう。