テープの量と比例して茉利子の情報も増えていった


どんな雑誌が好きなのか
どんな服が好きなのか
下着、食べ物、友達
好きな喫茶店


男は茉利子に彼氏がいないことが不思議でしかなかった

茉利子が男友達といるところを見たことが無かった


男は、だんだんと錯覚に陥っていった
きっと茉利子は自分を待っているのだと

だから、男の影がないのだと

気付くのに時間がかかってしまったことを悔やんだ


「ごめんよ…茉利子」



バイト先からは、無断欠勤が続いているため、自分がクビになったと連絡がきた


構わなかった

男の人生は、もう茉利子のものになっていた



そんなある日茉利子が重い悩んだ様子で家から出てきた

男はいつもと違う雰囲気の茉利子に戸惑いながら、いつものように後ろを歩いた

いつもよりずっとゆっくりとしたスピードで


駅に着いた
いつものようにホームの一番先頭で電車を待つ茉利子

男は後ろに立った


電車が来る

茉利子は一歩ずつ前へ進む
電車が近づく


茉利子が自殺しようとしていることに、男は気付いた

気付くと男は茉利子の体に触れ、体を入れ換えた
茉利子と目が合う
男は幸せの絶頂を迎えた

カメラを通してしか見たことのなかった茉利子と、こうして体が触れ合い、目が合っている




男は…意識が遠退いていき…全身から力が抜けていった



目覚めると自分の家だった

なにがあったのか、全く覚えていなかった


ただ、茉利子に触れ目が合ったこと以外は

まだ、幸せだった



起き上がると、いつもの風景ではない


テープが…無くなっていた

茉利子の…
茉利子の記録が全て


いつも枕の横に置いていたカメラも無くなっている


状況が把握できなかった


茉利子は…

茉利子は大丈夫だろうか


部屋を飛び出した
走った


茉利子の家に向かって、走った
汗をかいたのは久しぶりだった


家の前に着いた
いつもの白い家
2階の茉利子の部屋には、カーテンがかかっていた


茉利子はカーテンをかけるのは好きではなかった
いつも、カーテンはかかっていなかったのに


緑のカーテンだったのか

男は思った



茉利子が家から出てきた

とても、悲しそうな顔をしていた


茉利子…

話し掛けたかった
でも出来なかった


いつものように、後ろをつけた



茉利子はどこへ向かってるのか
今まで茉利子と通ったことのない道を通った


坂を登り切る
坂の上には墓地がある


茉利子は墓地に入った

茉利子の両親は健在だった
なぜ墓地に…


男は茉利子と初めて来る場所で、カメラがないことを悔やんだ

奥へ進んでいく


一つのお墓の前で茉利子は立ち止まった




…男の墓だった



「………ありがとう」
茉利子は言った

「こんな私の為に生命を…助けてくれて私はまた生きてみようと思えた…
あなたと目が合ったとき、こんなに優しい目をしている人がいるんだと思った。
今まで、男の人と目を合わせることも嫌だった、でも、あなたは違いました…

本当にありがとう」


そう言いながら、茉利子は花を供えた


立ち上がり、去っていく
とても、悲しそうに



男は言った


「もう…隠れて君を見なくて良いみたいだ」



end



男は悪人でしょうか
茉利子を盗撮し続けたことは、罪でしょう


しかし、生命を助け、死んでもなお、茉利子を見続けていたいと思う男の愛は、歪んでいるものの本物でしょう