【前回までのあらすじ】
近代の強力な産業組織の典型をみると、官僚制という、「純粋に技術的で、中立的で、計算可能な規則をもち、薄い人間関係を要求していて、ルールの定めた権限の範囲内のことしか行ってはいけない」組織がある地点までは最強であるというようなことを紹介しました。

さて、この官僚組織の下地が出来たなら、これを飛躍的に大規模化する動きへと昇華していきます。1920頃のアメリカでフォードT型の大量生産方式組織として全盛期を迎えたのです。フォードは「組立ライン」をまず「解体」から始めたと言われています。D.A.ハウンシェルによれば、1913年のフォードのフライホール磁石発電機組立部門の労働者は一人一人が多数の部品を使って組み立てていたが、その方法を止めて、特定の部分をナットで取り付け、次の労働者へそれを渡すという手順を何度も、9時間にわたって繰り返した。この結果、以前には29名が1日当たり35個程度だったものが、このライン作業になってから1日当たり1188個も組立たのである。翌年は作業者を14名減らして、1日8時間で、1335個を達成。「作業の遅いものを速くさせ、速いものを抑制する」ことができ、労働者の作業ペースを均一に保つことができたのである。

このフォードT型大量生産方式が成立するための必須条件として「互換性」がとりわけ重要だと言われている。互換性とは、製造する機械の構成部品について正確に規格を同じにして、いかなる部品をとっても他の機械へ組み付けが可能であることである。

このことについてハウンシェルは、「労力を少なくても4分の1節約できることに気がついた。それに、仕事の速度が上がるのと同様に出来栄えもよくなる」というように、互換性が機械生産を向上させるばかりか、分業の利益を促進することが指摘されている。

この互換性という考え方は、製品を作るときの物的な分業の問題ではなく、人々が結集させる仕組みとしての協力の問題として捉え直すことができる点が重要で、分業体制が進めば進むほど、そこでは、「熟練労働」という本来は分断できない仕事が、互換可能な「非熟練労働」に変えられるという現実が存在することが注目されたのである。つまり、互換性は、機械化あるいは分業化への特徴として、システムや機械の工夫と捉えられがちであるが、実際は、組織がどのように構成されるかという、人間関係の問題であったのだ。

ここでいやいや、熟練労働はまだまだ残っているでしょ!となんとなくわかるが直感的におかしいというご指摘はもっともで、まだまだ日本にも世界にも熟練工と同等の仕事ができない分野は残されています。それに、互換性によるモジュール部分を切り離した途端に組織全体がおかしくなる場合もあります。しかしこのモジュール化への流れは止まるどころかさらに加速し、「規模の経済」により利益追求し、多くのものが少なからず富を享受したわけです。

だけどその時は、気づいていなかった。

実はこの大規模化な協力結集システムにも問題が潜んでいて、次第にその病理が姿をみせ始め、僕たちはそれを経験することになることを。

to be continued...

参考文献
坂井素思、2014、「社会的協力論」放送大学教育振興会、p119-135