【前回までのあらすじ】
マズローの自己実現理論における社会的欲求と承認欲求、アイデンティティの表出の動機には個人にはあって、そこには他者からの評価フィードバックがあることに注目しました。そしてそれが同盟の資源として埋め込まれているならば、習慣的で長期的な協力パターンになるのではないか、というようなことを示唆しました。

「働かざるもの食うべからず」、「時は金なり」。現代を生きる私たちにとって、成果主義、生産性の正義が支配的です。しかしながらこのような産業精神の歴史は実は長くないようです。米国の経済学者ハイブロナーは次のように考えたそうです。



イタリアルネッサンスの懐疑的、探究的、人道主義的なものの見方の影響で、宗教精神がしだいに薄れ、現世中心主義が形成されて、それまでの禁欲生活のすすめから、与えられた自らの能力を日々の生活で勧められたのである。そして、節約と蓄財、勤勉なる労働という禁欲が人々に広まった。これと呼応して、英国のJロックなどにみられる近代的合理主義もあいまって「働けば働いた分だけ報われる」近代の経済社会全般にみられる経済的な勤労態度を体現していった。この産業精神というものの浸透で「働くことはよいことだ」という考え方が広まったのである。

この過程をみれば、なぜ働くかについて、それまで「神に奉仕する」という働き方から、人間のための社会的協力を求めて働くことに考え方がシフトしていった。

そして、働く人々の動機づけがどのように確保されるかが重要視されるようになり、表立って働くことが、社会の中で認められるように動機づけられ、働く組織が公式的なものと認められたことが、人々を協力の組織化へ大量に誘ったことになる。

坂井素思、2014、「社会的協力論」放送大学教育振興会、p56より


ここでみるように、現代を生きる私たちには、働くことはいいことだ、という勤労精神が埋め込まれています。ブラ三において協力活動の組織化が成熟している同盟はこういった個人の特性を織り込んでいるのかもしれません。