ラテに高級抹茶を使うなんて

 
 

世界的「抹茶ブーム」で、日本ではお茶会を開くのが困難になっている

 
 
 
 

 

ニューヨーク・タイムズ(米国)

 

Text by Pete Wells

 

抹茶の人気が止まらない。いまや海外で爆発的なブームとなり、ドリンクからスイーツまであらゆる製品に抹茶が使用されている。その一方で、粗悪品が市場に出回り、急増する需要に追いつけず抹茶不足の悲鳴をあげるのは日本の茶業界だ

 

 

 

日本では800年以上前から、抹茶をたしなむ伝統を築き上げてきた。それは「和敬清寂」の精神に基づいている。だが世界的な抹茶ブームが起こると、たった数年でその精神は根こそぎ失われ、不純なものへとすり替わった。

世評の高い日本の抹茶製造会社は、アマゾンやフェイスブックマーケットプレイスなどで通常の小売価格をはるかに上回る法外な価格で抹茶を転売する多数の業者といたちごっこを繰り広げている。一方で、三流品の粉末茶を詰め、45ドルの偽シャネルバッグばりの価格で販売したり、くすんだ黄色になるまで細かく挽いた普通茶を詰めたりした、偽物を売りさばく茶商もいる

 

 

 

 

数世紀をかけて名声を築いてきた日本の製茶会社は、落胆を隠せない。元禄年間(1688〜1704年)に小山久次郎が創業した丸久小山園は、中国系の偽造業者を相手取って訴訟を起こす一方(係争中)、偽造に強い商品パッケージに変更するといった対策を講じている。
 

こうした偽造品のなかには「低品質の粉末緑茶」が詰められている商品もあると、創業者直系の子孫で同社社長の小山元也はメールでのインタビューで述べた。

「偽造品を購入したお客さまに丸久小山園の製品だと思われてしまったら、それは間違いなく私共にとって多大な損害です」

 

 

 

「白い抹茶」も登場


買い手を惑わすという点でそこまで悪質ではないにせよ、抹茶の伝統とまるで相容れない用途にも抹茶は使われている。たとえばグリーンラテやグリーンスムージーは、純粋な抹茶愛好家を震え上がらせるような安直な製法(濃縮液、通称「バッチャ」を使用)と香り付け(バナナブレッド!)で作られる

 

 

抹茶ドリンクを謳う製品には、通常濃縮液が使われている Photo: Colin Clark / The New York Times


20年以上にわたり米国で抹茶の輸入販売を手掛ける「In Pursuit of Tea」共同創業者のセバスティアン・ベックウィズは、「抹茶の世界はまるで開拓時代の米国西部のよう。知らないことだらけで、新規参入組も続々とやってくる」と言う。

抹茶は最も伝統的で珍重されているタイプのお茶だ。太陽光を遮断した状態で数週間栽培されたのちに摘み取られ、蒸され、花崗岩の石臼で挽かれる。抹茶ができるまでには、非常に骨の折れる工程をいくつも経なければならない

 

 

 

 

だが、日本で抹茶が日常的な飲用に使われることはあまりない。日本国内で生産される茶葉の約50%は煎茶で、抹茶の生産量は6%ほどにすぎない。抹茶は、非常にニッチな飲み物なのだ。

ところがここ5年で、抹茶は日本国内よりも海外で人気が高まっている。TikTok動画のスターに躍り出て、カフェのメニューではコーヒーを押しのけている。現在、日本で生産されている抹茶の半分以上が輸出に振り向けられている。市場調査会社のNIQによると、米国内の抹茶小売販売は直近の3年間で86%増加した

 

 

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